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第54話

「大丈夫。お母さんは怒ってなんかいないよ。それよりも、宗輔くんのこと心配してたよ」  もうこの世にはいない人だったけれど、もしいたとしたら結太の言葉と同じ気持ちでいてくれただろう。 「……じゃあ、何で手錠でつながれてたの」 「それは」  答えにくい質問だった。  宗輔も段々と成長してきている。もう子供に対する誤魔化しの説明は通用しなくなる時期だろう。 「難しいけれど、ちゃんとした理由があるんだよ」 「理由?」 「うん。それよりも、お腹すいてない?」 「……すいてる」  結太は宗輔の背中をなでながら優しく言った。 「じゃあ、ご飯食べようか。俺、夕食持ってきたんだ。食べながら話をしようよ」  そう言うと、宗輔は赤く腫れた目を瞬かせて頷いた。  夕食を皿にもりつけて、ダイニングテーブルに並べる。宗輔は空腹だったらしく料理を次々と口に運んだ。 「お母さんが、これをお兄さんに持たせてくれたの?」  どうやら母親の作った料理だと勘違いしているらしい。対面に腰かけた結太は訂正しなかった。 「うん、そうだよ。今日はここに俺と一緒に泊まって欲しいって」 「……ふうん。それで反省しろってことなのかな」  結太は落ちこみ気味の少年宗輔を励ました。 「明日にはきっと、うまくいくよ。お母さんも、もう怒ってなかったから」  食後のお茶を保温ポットからカップに注いで、宗輔の前におく。宗輔はカップを手にして、それをぼんやりと見おろした。 「お兄さんは、あの家のこと、知ってるの? 俺のことも」 「うん。大体はね。親戚だからね」 「そっか」 消沈した表情で、ポツリと呟く。 「あんなこと、言うつもりはなかったんだ。あの子には」  目を伏せて、後悔するように言った。 「本当は、仲良くしなきゃ、ってわかってるんだ。これからあの家にお世話になるんだし。けれど、あの子……結太が、俺に、すごく明るい笑顔で、話しかけてきたから……」  宗輔はそこで、また鼻をグスリと鳴らした。

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