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第56話

 結太は曖昧な返事をして慌てて立ちあがり、皿や容器を片づけた。 「ご飯食べたなら、お風呂わかそうか。今夜は、俺も泊まっていくから」 「本当? 嬉しい」  宗輔は素直に頷いて、一緒に台所までついてくると洗い物を手伝ってくれた。  その後、風呂の準備をして宗輔に入るように言うと、少年宗輔は結太の横にきて言った。 「お兄さんも、一緒に入って」 「え?」 「ひとりで入るの、怖い」  言われて気づく。そうだ、宗輔の実父は脱衣所で倒れていたのだった。 「ああ、そっか。うん、わかった。いいよ、一緒に入ろう」  そうして、ふたりで脱衣所で裸になって風呂に入った。  少年宗輔の髪を洗って、背中も流してやる。宗輔はじっとされるがままにしていた。広めの湯船に一緒につかると、少し恥ずかしそうにする。それでもくっついていることを嫌がらなかった。 「お兄さんは、明日はいなくなっちゃうの?」  お湯で温まり、頬を赤くした宗輔がきいてくる。 「明日は……どうかなあ。また宗輔さんに会いにきたいんだけど」  大人の宗輔が許してくれるかどうか。 「きてよ。俺、また会いたい。それで、たくさん話したい」 「うん。俺も宗輔さんと色々な話をしたいなあ」  それは少年宗輔とでもあったし、大人の彼とも、そうしたい思いで一杯だった。 「お兄さんって、優しいね」  大人の結太に、憧憬にも似た眼差しを向けてくる。泣いたせいか、それとも風呂場の湿気のせいか、宗輔の瞳は潤んでいた。大人の彼の面差しを残した目許にドキドキしてしまう。結太はそれを誤魔化すように、湯で乱暴に顔を洗った。  風呂をでたら、寝る準備をして、座敷に布団を二組敷く。昔ながらの紐つき蛍光灯のオレンジ色の豆電球だけ灯しておいて、布団に入った。

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