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第58話 成長

   早朝の鴉がどこかで元気に鳴いている。座敷の東側についている障子窓が、うっすらと白み始めている。  結太は、おぼろげな(まなこ)で周囲を見渡した。 「……あれ」  いつもと違う部屋の景色に、そうだ、宗輔の実家にまた泊ったのだと思いだす。  横では大人に戻った宗輔が眠っていた。まだ目覚めていないらしく、規則的な呼吸音だけが聞こえてきている。 「ぐっすり寝てる……」  結太はそっと身じろいで、宗輔と向きあった。  宗輔の手は相変わらず結太の腕に絡められている。その寝顔をじっと眺めた。  真っ直ぐな鼻筋に、大きめで薄い唇。男らしい顎のラインに、長い睫。寝乱れた短い髪を観察しつつ本当にこの人のことが好きなんだなあと、自分の気持ちを噛みしめた。  やがて睫がピクリと揺れて、瞼がゆっくりと持ちあがった。  ぼんやりした瞳が焦点を結びつつ結太の顔をとらえる。かと思ったら、ふいに顔を伏せて結太の肩に額を押しつけるようにしてきた。 「おはようございます、宗輔さん」  結太が挨拶すると、宗輔は少しの間黙ったままでいた。それから「……ああ」と気だるげに返事をした。  寝起きの宗輔は、まだ起きる気になれないのか、身体を動かす気配はない。 「あの、昨日の夜のこと、憶えてます?」  また少し沈黙。それから俯いたままで答えてきた。 「ああ」  結太は顎に宗輔の髪が触れるのを感じながら話しかけた。 「すいません、様子を見にきたら、放っておけなくなって、それで助けてあげました」 「うん」  わかってると言いたげに、短く返してくる。 「じゃあ、起きますから」  結太は宗輔から離れて起きあがろうとした。  しかし、抜こうとした腕を、再びギュッと握られてしまう。 「え?」 「結太」  短く呼ばれて、「はい?」と返事をする。 「お前、昨日、寝る前に何て言った」 「え?」  宗輔は結太の腕を離すまいとしているように見えた。奇妙なことだった。

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