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第65話 結呪

「何だかよくわからないけど、とりあえず願いは叶ったんだから、白魔術は効いたのですね」  結太が居間の隅のチェストの上に木像を飾りながら言う。 「そうだな。これのおかげで、俺は自分の気持ちに気づけたんだから」  宗輔が、後ろから結太を抱きしめながら答えた。 「ということは、やはり魂の浄化は宗輔さんに必要なものだったのでしょうか」 「まあ、鬱屈した子供時代から引きずってきた負の感情は浄化された気がする」  宗輔が、結太の髪にかるく唇を押しつけた。 「お前のおかげだよ。うざったいぐらいに構ってくれなかったら、こうはならなかった」  言いながら、けれど口調は嬉しそうだった。  休日の昼間、結太と宗輔は自由な時間をまったりと楽しんでいた。  ふたりの気持ちが通じあってから一か月がたっていた。その間、宗輔は相変わらず夜は昔の自分、昼は現在の姿となって暮らしている。しかし最終日は近く、夜の宗輔も現在はほぼ大人だった。  恋人同士になってからの宗輔は、以前とは人が変わったかのように優しくなった。今まで愛情を素直に享受したり、誰かに与えたりしたことがなかったせいか、結太という対象をえて、まるで堰を切ったようにそれがあふれだした。時間があれば結太のそばにきて用もないのに構い倒すし、物事の中心はすべて結太のために考えて行動するようになった。  突然の変わりように結太は驚いたのだが、十九歳から長くひとり暮らしをしていた宗輔は、自身も気づいていなかったのだろうがやはり寂しかったらしい。好きな相手と一緒に暮らせる安心感を覚えると、一気にそれにのめりこんでいったのだった。 「夢みたいです。宗輔さんとこんな風にすごせるようになるなんて」 「俺もだよ。百日の呪いが解けたら、もう一緒に暮らすか」 「本当ですか」  現在、平日の宗輔は仕事を早めに終えると、実家のほうに戻っている。ほぼ大人の過去宗輔はこの家に連れてきても混乱するだけだからだ。だから仕方なく、宗輔は自分の家に帰る生活へと切りかえた。そして、そこで過去の自分に現状を記した手紙をおいておく。  夜になると、仕事を終えた結太は成善家を訪問して、過去宗輔にさらに詳しく説明を加えることにしていた。大抵の場合、結太は顔を見せただけで『何しにきた。帰れ』と門前払いを受けるのだが、それでも毎晩、宗輔に会いにいっていた。

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