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第67話 最終日
そして残りの日々はあっという間にすぎ、ついに満願成就の日がやってきた。
本日午後九時、両親の一周忌の夜から数えてちょうど百日目に結願となる。結太はそれを祝うため、仕事から帰ってから台所で夕食の準備をしていた。午後九時をすぎたら多分、呪いの解けた宗輔がやってくる。一周忌にできなかった食事を、もういちどやり直そうと約束していたので、腕によりをかけて幾品も料理を作っていた。
「何か具合がよくないな。悪寒がする。大丈夫かな……」
けれど風邪でもひいてしまったのか、今日は朝から体調がよくない。宗輔の大好きな海老グラタンの仕込みをしつつ、結太は寒気を感じて身体を震わせた。
「何だろう、この感じ。ぞわぞわする」
そうしていたら固定電話が鳴った。誰からだろうと、結太はコンロの火を消して電話にでた。
『吉原一太郎先生のお宅ですか』
と電話の向こうから話しかけてきたのは、何と木像を送ってくれた大泉という名の父の友人の大学教授だった。
結太は突然の電話に驚き、まず父の死を伝えた。アフリカに住む大泉がそれを知ったのはつい最近で、お悔やみを伝えるために連絡をくれたらしい。父の死についての経過を一通り報告した後、結太は送ってもらった木像について話をした。
『あのニゲ族に伝わる呪術用道具『夜の笏』は、僕が調べた中でもとりわけ強力な白魔術用の道具だ。なるほど、では効果はあったのだね。素晴らしい』
「はい。今日で百日目です。一度壊してしまったにもかかわらず、願いが叶ってよかったです」
『何? ――壊した?』
電話の声が急に変わる。
『壊したのかね? 結太くん。……まさか、夜の笏を?』
「え、ええ、落として破損しました」
いきなり詰問口調になった大泉に、結太も訳がわからず戸惑いながら答えた。
『まずいぞ。それは、非常にまずい』
大泉が電話の向こうで焦りだす。
『魔術封印後の道具は、術のために呼ばれた精霊が宿る神聖な場となる。それが破壊されたとなると、解き放たれた精霊は目的を失い、願いの対象者にパワーを跳ね返してしまうと言われている。つまり、対象者を死に至らしめてしまう、ということだ。詳しい取り扱いは吉原先生にメールしたのだが、……そうか、結太くんは見ていないのか』
「え?」
結太は目を見ひらいた。
「ということは、宗輔さんが死ぬんですか?」
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