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第69話
どうしていいかわからず怯えていたら、しばらくしてインターホンの音が響いた。宗輔だ。だがインターホンにでようにも手足に力が入らない。音は何度か鳴ったのち、玄関ドアのあく音に代わった。
「結太。帰ったぞ」
宗輔の声がする。
「いないのか? 祝いに赤ワインを買ってきた。一緒に……――おい、どうした?」
リビングに入ってきた宗輔が、倒れている結太を発見して驚く。荷物を床に落とすと駆けよってきた。
「結太、何があった?」
身体を震わせた結太を抱きあげる。
しかし、結太は口も動かせなくなっていた。全身が金縛りのような奇怪な感覚に支配されている。
『――結太くん? 結太くん、まさか、呪いの跳ね返しがきたか? 大丈夫かね?』
受話器から声がもれていた。それに気づいた宗輔が、手に取って電話口の向こうの相手に話しかける。
「もしもし? ええ。……ええ、はい、私が、結太の兄の宗輔です。あなたが、木像を送ってくださった先生なのですか。結太は今、真っ青な顔で震えています。一体、これは何なんですか」
宗輔の問いに、大泉が答えている様子が伝わってきた。
「呪い返しって、そんな。結太はどうなるんですか。術を解く方法はあるんですか」
宗輔の顔も蒼白になる。愕然とした宗輔に、大泉が何事か説明した。
ふたりが話しこんでいる間にも、不可解な怖気がどんどん強くなっていく。まるで高熱におかされたかのように、全身がわななきだした。
「数時間で死に至るって……。そんなまさか、……こんな呪いで、急に命を落とすなんて。ありえないでしょう」
宗輔の声が震える。いきなり襲ってきた厄災に、結太も自分がどうなってしまったのか、理解が追いつかなかった。本当に、このまま死んでしまうのか。
「結太は大切な弟なんです。呪いなんかで失いたくはない。助けてください。どうかお願いします」
動転した宗輔が、受話器に向かって叫ぶ。それに大泉が何かを伝えた。
宗輔は黙ってその話を聞いていた。やがて抑えた声で呟く。
「……わかりました。結太を助けるんだったら何でもします。――はい、可能性があるんだったら準備して、私がやります」
宗輔は大泉との会話をいったんとめると、結太を床に横たわらせた。
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