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第70話

「結太、いいか。お前の身体は今、木像を傷つけられて結呪ができなくなった精霊によって、負の霊力の攻撃を受けているらしい。それをやめさせるためには、解呪の儀式が必要なんだと。だから、儀式を俺と大泉先生で試してみる。効果があるかどうかわからないが、お前を救うために、やってみるからな」  結太は朦朧とした意識の中で、か弱く頷いた。宗輔は固定電話を結太の頭の横に引っ張ってくると、ボタンを操作してスピーカーモードに切りかえた。 「待ってろ、すぐに助けてやる」  汗を滲ませ始めた結太の額に、手をおいて安心させるようにかるくなでると、立ちあがって忙しく部屋の中をいったりきたりし始めた。木像や真っ白なタオルに水、ペティナイフなどを持ってきて結太の横に並べる。 「蝋燭はないです」  電話に向かって呼びかける。 『構わん。部屋の電灯を消して、暗くしなさい。すぐに始めよう』 「はい」  宗輔は部屋を暗くすると、結太と電話の前に緊張した面持ちで正座をした。蝋燭の代わりにスマホの明かりを灯す。部屋がおぼろに照らしだされた。 『結太くん、いいかね。今から術のかけ直しを行う。本来ならば、呪術師の元へいって、修復の呪文と新たな生贄を捧げなければならないがそんな時間はないから、私が祈祷を代行する。まず、精霊を吸ってしまった宗輔くんから精霊を取りだし、笏に戻さねばならない。その上で願かけをし直す。笏はそれで、再び願いを叶えにかかるはずだ』  答えられない結太の代わりに、宗輔が「わかりました」と言う。 『願かけのやり直しを忘れないように。そうしないと発動した霊力がさまよって他で悪さをしかねない』 「はい」 『では、始めよう』  大泉は、何やら怪しげな呪文を、電話の向こうで唱え始めた。それは地の底から響いてくるような不気味な声音だった。結太の身体はその不思議な低音に、反応するように痙攣し始めた。皮膚の内側で何かが這い回る感じがする。おぞましい感覚と、どんどん熱を持つ身体に気持ち悪くて泣きそうになった。けれど、歯を喰いしばりそれに耐えた。  数分間、大泉は呪文を唱えると、おもむろに宗輔に言った。 『新鮮な血を。用意できるかね?』 「できます」  宗輔が迷いなく答える。そして、おいてあったペティナイフを取りあげると、いきなり自分の腕を切りつけた。 「――」

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