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悋気-rinki-5

「なに?臭いってこと?」 気になって自分の腕を嗅いでみるが、何が匂うのか全く分からない。 「分からないなら、いいよ…。」 悲しげな目を見せると樹矢は俺から離れ、先に進む。持っていたレタスを置いて、追いかける。あまりに早足で小走りじゃないと追いつけない。 「ちょっと…!樹矢?」 目の前に立ち塞がり、名前を呼ぶ。 すると鋭い目つきで俺を見た。 「もう、帰ろう。」 言い終わるが先か、俺の腕を取ってレジまで直行する。 カゴに入っていた少しの食材を購入して、袋に適当に入れるとスーパーを出て、駐車場へと向かう。 「樹矢っ…?い、痛い。」 歩きながらというか、樹矢によって連れられながら俺は小さく訴える。樹矢の掴む力が強く、腕が圧迫して麻痺していた。 彼はそれでも全く動じずに、足を運ぶ事を止めない。 (何か、怒っている?) そんな不安が過ると、トクトクと鳴る心臓のビートが早く大きくなっていく。頭の中にある記憶を一生懸命、巡り巡って考える。 ガチャ…。 そう音を鳴らして開いたのは、車の後部座席のドアだった。 「しゆ。」 低く小さく名前だけ呼んで、俺を後部座席へと強引に押し倒した。 「っ…。」 バタンと扉が閉まれば、樹矢は俺に口付ける。 それも深く、深く…。 「んぅ…。っ…。」 腕を握る手はまだ離してくれないどころか、更に力が加わる。 (痛い…みぃくん…。)

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