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秋桜-cosmos-6

鶫は、伸ばした手を俺に向ける。その表情は暗くてよく見えないけれどきっと何か切なげな、想う顔をしているんだろう。 シャッターを切るとその手は真上へと伸ばして、鶫は初めて気づいた。今、自分の頭上にはとてつもなく星の粒が瞬いている事に。 「どう?鶫。」 俺はレンズ越しに、月明かりで照らされたその自然の照明の中に見えた鶫の表情を逃さなかった。 「すごいよ、朱斗…。こんなに沢山の星を見たのは初めて…。」 瞬きを忘れるほどに、そこにある星から目を離せないでいた。 「コスモスって言うんだって。」 「…え?」 俺の方を向いて、鶫は続きを聞く。 「宇宙に星が沢山並んでいるのをコスモスって言うんだよ。つまり、この空はコスモス。すごく…綺麗じゃない?」 俺も空を見上げる。ファインダーは通さない、自らの眼でしっかりと見つめた。自分自身の心のフィルムに残すようにその場、その時をしっかりと焼き付ける。 「本当に…星の数ほど沢山の美しいコスモスが溢れてる。」 鶫は、その自然のコスモスに囲まれた中でニッコリと微笑んで両手を広げた。 ―― 「また行きたいな。」 本を閉じて、目を閉じる。 あの日の事を、沢山あるフィルムの中からゴソゴソと探りだせばすっと出てくる。 また、鶫と一緒に行ってみたい。 どれだけ成長したのか、どれだけの作品が撮れるのか、趣味でいいからしてみたいと自分の心の隅っこに小さな夢が出来上がった。 ―― ―

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