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第2話 説教されます。
「それも、持ってやる」
背が高くてガタイの良い山根は俺の手から資料を取り上げる。手がしびれ始めていたので助かった。
そのまま、俺と山根は何事も無かったように歩き出す。
「...優羽!!」
「見るな」
圭人の声を、山根は遮った。
俺も振り返る気はなかったから、そのまま歩いた。
もぅ、名前は呼ばれなかった。
「これで、何回目?」
乱雑に物が置かれている社会科準備室に山根は適当に資料を置いてため息混じりに言った。
「...分かんない」
数えるのも馬鹿らしいほどだ。
俺は自嘲気味に笑って答えた。
「...はぁ。なぁ、優羽」
始まった。
幼なじみの山根は、俺と圭人の事を知っている人間だ。最初から、山根は圭人と付き合う事に反対だった。
…浮気される度にこうして説教してくる。
俺は何も言わずそれを聞く。
いや、何も言えず、だ。
山根の言うことは正しい。
あんな男、別れろ。それだけだ。
授業中という事もあり、早く教室へ戻らないといけないから説教はすぐ終わった。
山根は不機嫌に眉間にシワをいつもより濃く作っていた。
まだ言い足りないんだろう。
準備室を出ても、視聴覚室の前を通っても人の気配は無かった。
はぁ、と大きなため息がすぐそばから聞こえる。
「…お前なぁ」
呆れたような山根の声。顔をあげようとした俺の目の前には大きな手。山根のごつごつした大きな手が俺の目を塞ぎ、俺は歩みを止めた。
「泣くな」
後ろから、そっと抱きしめられる。
「...っ!」
山根の腕を掴む。
泣いてるつもりはなかった。……でも、目からは涙が勝手に溢れて止まらない。
「...っ、授業...遅れっ...」
「ばか」
山根はまたため息をついて、もぅ片方の手で俺の頭を撫でる。
「...う~っ」
山根の大きなごつごつした優しい手に隠れて、俺は学校だということも忘れて泣いた。
こんなに泣いたのは、初めて浮気現場を目撃して以来だ。
まだ圭人のために涙が出るのかと驚いた。
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