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第5話 初めまして。

…眠いなぁ。 お昼ご飯も食べ終わり、少し寝ようと山根と凛と別れてフラフラと裏庭に向かって歩く。夏まではまだ日がある今は、太陽の光が気持ちいい。目指す先は、裏庭。と言っても、少しばかり林のようになっていて鬱蒼としているそこは、気持ちばかりの花が植えられているだけで余り人は近づかない。 うん、今日も誰もいない。 周りを確認し、人が居ないのを確認すると申し訳程度に置いてあるベンチに体を横たえた。腕で目元を隠し寝る態勢を整える。 寝不足が続いており、心地良さにすぐ眠くなるかと思ったがなかなか眠れない。 「んー...ん?」 不意に、耳に心地よい音が流れてくる。 「ピアノ...?」 裏庭の隣の校舎は特別棟だ。1階には余り使われていない第2音楽室がある。ピアノの音はそこから聴こえてきた。 ゆっくりと起き上がると、興味本位で音源の元へと足を進める。 風に乗って微かに小さく聴こえていたピアノの音がしっかりと耳に入ってくる。 優しい音。陽だまりのように暖かい。そして、楽しそうだ。 ドアからそっと覗くと、こちらに背を向けピアノを弾く男の人の後ろ姿。女の子かと勝手に思ってたから驚いた。背中が大きくよく見えないが、それでも隙間から見える指の動きはしなやかで。体中からピアノが好きなことが伝わってくる。 なんて曲だろう。思わず微笑んでしまうほど、彼の奏でるピアノの音は心に気持ちよかった。 ...あ、眠い。 しばらく曲に聴き惚れていたが、突然睡魔が襲ってきた。体は言う事をきかず、その場でドアを背に座り込んで...寝てしまった。 「……わぁっ!?」 背の支えがなくなり、ふと体が横に倒れた衝撃で目が覚めた。 「...あれ?」 「えぇっ?え?え?人っ?だ、大丈夫ですか?え?」 びっくりするほど、狼狽えた声が上から降ってくる。 あぁ、そうか。ピアノ聴いてたら寝ちゃったんだ。そりゃ、ドア開けたら人がいるなんて驚くよな。 ぼんやりとした頭でそう考え、顔を上げて声の主を見る。 「ごめんね、驚かせ...」 不安と心配を混ぜた焦げ茶色の瞳がこちらを覗いている。少したれ目の、甘さのある目。そして、とても綺麗な瞳だ。そんな彼が手を差し出した。大きくて、綺麗な手。どこもかしこも綺麗だから、思わず見とれてしまった。 「...あの?」 動かない俺を不思議そうに首を傾げて様子を伺っている。 「...あ、ごめんね。うん。大丈夫」 自力で立とうとすると手首を掴まれて引き起こされた。勢いづいて、彼の胸にダイブするが厚い胸板は難なく俺を受け止める。 「わっ!先輩、軽い!」 「...でかい」 隣に並ぶと、彼がものすごい長身だと分かる。頭1個分の差がある。 「...え?先輩?俺?」 笑うと無くなるたれ目は優しい印象を与える。 「スリッパの色。赤だから、2年生ですよね?」 そう言って彼は優しく笑った。

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