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第6話 松木太一郎です。

確かに、スリッパは学年を示す色で分けられている。チラリと彼のスリッパを見ると、1年生を示す青色だ。 顔を上げると、にこにこ笑っている彼と目が合う。ここまで大きい人は、初めてだ。山根も大きいが、俺が168cmしかないから余計大きく見えるのだろうか。...羨ましい。 「...1年生?」 「はい。1年2組。 松木 太一郎です。」 律儀に頭を下げる彼につられて、俺も頭を下げる。 「あ、俺、2年3組の矢作優羽。ごめんね、ピアノの邪魔して」 「...っ!聴いたんですか?」 瞬時に、にこにこ顔が真っ赤に染まる。恥ずかしそうに顔を片手で覆っている。耳まで真っ赤になってるのが見えた。彼の慌てぶりにこっちまで驚いてしまう。 「うん。裏庭にいたら聴こえてきて。すっごい楽しそうだった」 「...楽しそう...ですか?」 チラリと指の隙間からこっちを伺ってくる様子はなんだか小さな子供みたいで微笑ましい。 「うん。」 「わ~、恥ずかしい」 「すごく上手だった!なんて曲なの?」 恥ずかしそうに俯いて、でもチラチラとこちらを伺う様子が身体は大きいのに小さな子供みたいで、いや、小動物...犬?なんだか、可愛らしい。 「仔犬のワルツ、です」 「仔犬のワルツ...仔犬...」 目の前の彼のイメージそのままの曲名に吹き出してしまう。 「な、なんで笑うんですか?」 「ご、ごめんね。可愛いなって思って」 「か、可愛い...」 ボンッと煙が出そうなほど真っ赤になる。それがまた、可愛くて声を出して笑ってしまった。 「あ!先輩、からかってるでしょ!」 ぷくっと頬を膨らませて不機嫌を表したかと思えば、すぐにへにゃっと笑う。コロコロ変わる表情は見ていて飽きない。人見知りの自分が初対面でこんなに話せるのも、ほんわかとした彼の雰囲気のおかげかな。 「からかってないよ。笑ったのはその....ごめんね」 「ふはっ!いいですよ。俺も恥ずかしかっただけだし」 2人、顔を見合わせて笑った。 チラリと壁の時計を見ると、まだ昼休みの時間。 「...松木君、時間大丈夫ならもぅ1度弾いてくれない?」 図々しいお願いに、彼はにっこりと笑って了承してくれて。 「ヘタクソっすよ?」 頭をかきながら、やはり恥ずかしそうにピアノの前に座り「では」と曲を奏で始める。 上手いか下手かなんて分からない。でも、弾いている姿は楽しそうだし、それにピアノの音はとても優しい。 近くに椅子を持ってきて座り、鍵盤の上を優雅に動く指先を見る。どうなっているのか不思議で思わず見入ってしまう。 彼のピアノの音が心の中にスッと入ってきた。

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