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第7話 穏やかな時間です。
それから、昼休みには松木君にピアノを弾いてもらう事が多くなった。松木君はアニメやゲームの曲も少しだけ弾けると、自分のできる曲を片っ端から披露してくれた。
家がピアノ教室をしていて、小さい頃はちゃんと習っててある程度の基礎はできたけど、好きじゃない曲をやるのが嫌になったから習い事としては辞めたと笑いながら言っていた。自由にやりたい曲だけを教えてもらったそうだ。
「じゃあ、この曲 なーんだ?」
いたずらっ子のように笑いながら、松木君は後ろにいる俺を見る。いつも瞳がキラキラしてキレイだ。
流れた曲は、昔好きだったアニメの主題歌だった。
「あ!俺、このアニメ好きだった」
「え?ほんとですか?俺、映画観に行きましたよ!3回!!」
「えっ!?3回も?同じ映画を?」
「はい。何回観ても感動するんですよね。泣くところも毎回同じで」
ふにゃっと笑いながら、軽やかな指さばきで音を奏でる。アニメのキャラの真似をして歌い出すからお腹を抱えて笑った。
松木君と居ると、楽しい。時間があっという間に過ぎていく。いつも会うのは昼休みの20分かそこらで、それでも最近の俺の癒し時間。松木君、わんこみたい。人懐っこくて大きくて 安心する。
ピロリン。
携帯が鳴って、見ると山根からでそろそろ戻ってこいっていう お母さんみたいな内容。
楽しい時間はほんとにあっという間だ。
「あー、えっと、矢作先輩」
携帯から松木君に目を向けると、そわそわとしている。
「ん?」
「あー、その、良かったら...携帯、教えて下さい」
「え?」
「あ、その、Limeとかできたら楽しいだろうなって、思って」
松木君は目を逸らしながら、手に自分の携帯を握りしめている。
「あ!いや、あの、無理にとは言いません!!」
「あ、違う違う。俺、まだ教えてなかったっけ?そっか。とっくに教えてたと思ってた。...俺も、松木君の連絡先教えて欲しいな」
しゅんっと項垂れてた顔を上げて、松木君はキラキラの笑顔で応えてくれる。
番号を交換して、そのまま教室に向かった。
ピロリン。
携帯が鳴り、見ると松木君だ。慌てて開くと
『ちゃんと届いていますか?確認も兼ねて初のメッセージです!!』
のメッセージとともに、にっこり笑っている犬のスタンプが。思わず笑ってしまう。
『ちゃんと届いてるよ。今日も素敵な曲をありがとう。楽しかった!!』
そして、気づく。
連絡先も知らないで、当たり前のようにほぼ毎日会えていたことに。
「不思議」
そして、明日もまた会える事を確信しつつ、自然と上がる口角には気づかなかった。
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