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第8話 モテモテです。
「なんだか、最近ご機嫌ね、優羽。あたし、この問題分からないわ、謙ちゃん」
「んあ?俺に聞くな」
今日、いいお天気ね、みたいに軽く話題を振ってきた凛は数学のプリントに頭を悩ませている。応える山根も頭から煙を出しながらプリントをどうにか解こうと必死になっている。
「そう?あ、凛、そこはこの公式だよ」
窓際の自分の席に座り、悩める2人にアドバイスしながら外を見ると松木君がお友達とグランドでサッカーをしていた。楽しそうに、いつものキラキラとした笑顔でボールを追いかけている。眩しい。その笑顔に釣られていつの間にか俺も笑ってたようで、凛が怪訝な顔をしてこっちを見ていた。
「何?若者が青春してるのを見守ってるおじぃちゃんみたい」
「凛、ひどい」
グランドに顔を向けて山根が
「...あぁ、優羽のお気に入りじゃん。あいつ、すっげ楽しそうに笑うのな。見ていて気持ちがいい」
そう言って、山根本人も笑う。
「やだ。謙ちゃんもおじぃちゃんみたい」
「サッカーであんなに はしゃげんよ、わし。だりーもん。」
優羽のお気に入り。
山根がそう認定するくらいに、知らず知らずに松木君の話ばかりしている事に気づいていない。
なんで、お気に入りなんだろ?
確かに、最近仲が良いし毎日Limeのやり取りもしている。否定はしないけど。
「松木君、だっけ?後輩から聞いたけど、すごい人気あるんだってね」
「あー、男から見ても男前だもんな。背も俺よりでかいよな?」
「188あるって」
山根は181cmだ。
負けたー!と大して悔しそうじゃない山根に笑う。
「わぉ。そりゃ、モテるわね。男前で背も高くて優しくて?」
凛の発言に、山根は不機嫌に眉間にシワを寄せた。さっきよりも悔しそう。
「お前、俺以外の男を褒めるのやめろ」
「やん♡♡謙ちゃんったらヤキモチ焼いちゃって可愛い♡♡」
...でた。バカップル。
プリントそっちのけでいちゃこらしだしたバカップルを横目にため息をつき、松木君に目を向ける。
そっか。モテるのか。そうだよな。雰囲気もすごく柔らかいし、話しやすいし。モテるの分かるな。
ぼーっと眺めていると、目が合った。
ふにゃっと笑ってこっちに向かって手を振ってくれる。思わず手を振り返そうとしたら、きゃーと黄色い声が上がった。見ると、グランドの隅で4、5人の女子が騒いでいる。
...おぉ。早速人気者ぶりを発揮している。
びっくりして見ていると、女子の群れの中から1人、ポニーテールの子が松木君に駆け寄り何やら楽しそうに話し出した。遠目からでも分かる、可愛い子だ。すごく親しげな2人の距離感に、上げかけていた手をそっと下ろした。
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