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第11話 急接近です。
次の日から圭人は俺の周りにちょくちょく現れるようになり、凛に近づくなと怒られていた。それでもめげずにうろつくので、半ば呆れられながらも山根からはメンタル強すぎ、と言われていて、凛はやっぱり怒っていた。
「優羽。」
昼休みに自動販売機に向かって歩いていると圭人に声をかけられる。
「飲み物買いに行くの?ついてっていい?」
にこにこと笑って聞いてくるので、首を振って断った。
「なんで?!」
あまりの即答の早さに、圭人の大きな瞳が驚きに見開かれる。
「...なんでも」
圭人は、あれから毎日のように俺の周りをうろついている。まるで付き合い始めた頃のようにLimeや電話もくれた。ただ、俺からは必要最低限の返ししかしていない。
毎日、飴もくれる。唯一、圭人が俺に触れるのは飴をくれる時だけだ。
「まぁ、いいわ。俺も飲み物買いに行こうと思ってたし」
何事もないように、圭人は隣を歩き出した。
...断った意味ないな、とため息をついた。
「矢作先輩!!」
不意に大声で呼ばれて立ち止まる。
「...松木君」
松木君は少し離れた場所からキラキラな笑顔で走ってくる。
「音楽室ですか?一緒に行きません?」
尻尾をブンブン振ってるような音が聞こえる。待てを言いつけられたワンコのようで、つぶらな瞳が眩しい。
「あ、や、あの...」
音楽室に行く予定ではない。けど、このつぶらな瞳に見つめられたら言葉がでない。
「...誰?」
1人オロオロしていると、後ろから圭人の声が聞こえる。社交的な圭人には珍しく警戒心に満ちてる声だ。
「...あ、こんにちは」
松木君も圭人の存在に気づいたようで、気まずそうに頭を下げている。
「1年の松木君」
「は?1年が何の用?」
トゲのある圭人の言い方に正直ムッとした。
松木君も困ったように眉毛を下げている。
「...圭人には関係ないだろ」
「...へぇ?」
圭人を無視して、松木君に近づく。
「ごめんね。」
圭人を見るけど、知らんぷりして携帯をいじっている。
「あ、いえ。...それより先輩、音楽しー」
「太一郎!!」
可愛い声がしたかと思うと、松木君の後ろから例のポニーテールの子が飛びついていた。
衝撃で少しよろめくが、元々体格が良いので倒れることは無かった。
「...萌乃」
「もぉ!探したよー?」
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