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第14話 山根謙三です。

「おい。バカ野郎」 その言葉で素直に振り向く男に呆れながらも笑いがこみ上げる。 「...山根」 男は俺を確認すると眉間にシワを寄せ思いっきり嫌そうな顔をした。 「...何?」 優羽に向ける甘い声じゃなく、警戒心丸出しの低い声。 「お前、なんで優羽の周りうろついてんの?何、その鋼のハート。何の成分よ?」 「...恋人の傍にいるだけだよ。お前だって、浜口と一緒にいるだろ?それと一緒だ」 「俺と凛をお前と一緒にすんな」 自分でも分かるくらい、低い声が出た。凛は大切な大切な人だ。それを、浮気野郎の気持ちと同じだと言われたのが本気でムカついた。 そして、本気で可哀想にも思った。 「...分かってんだろ?もぅ、遅いんじゃねーの?」 授業の始まりを告げるチャイムが遠くで聞こえた。俺と尾関の以外の人間が慌しく教室に入っていく。 「...」 何を考えてるのか分からない表情で尾関は俺に背中を向け歩いていく。 今更気付いても、遅いんだよ、バカ野郎。 矢作優羽は、大切な大切な幼馴染みだ。 小さい頃からずっと一緒にいた。何をやるにも、どこに行くにも俺の隣には凛と優羽がいた。隣にいるのが当たり前だった。 その優羽が、初めて付き合ったのが尾関だ。大人しめの優羽は明るい尾関に惹かれているのはなんとなく分かったが見守っていた。同性だろうけど、優羽が良いなら俺も凛も何も言う事はない。 ...浮気なんて論外だけど。 泣かせるなんて、ほんとクソ野郎。 せっかく、最近笑顔が増えてきたのに。 ため息ついて頭をガシガシ掻く。

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