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第16話 本当のことです。

「...え?」 あれ?俺、笑ってなかった? 松木君と居るとすごく楽しくていつも笑ってた気がするのに...あ。圭人やあの娘が来てから避けてた。 「あ、の、ごめん」 「えっ?いや、そんな!すみません、そんな意味はなくって」 なんとなく、居た堪れなくなってするりと口から出た言葉に松木君は大いに慌てた。 「ただ...俺、先輩の笑った顔も好きだから、もっと見たいなぁって」 大きな体が小さくなっていく。 気まずそうに、恥ずかしそうに頭をかいて松木君は顔を背ける。 耳のすぐ下から心臓の音が、今までよりも大きく速く聞こえる。 あ、あれ?な、んだ、これ。 それに、今の言葉って...。 貰ったミルクティーのペットボトルを握りしめる。 「あーっと、あの、好きって俺、何言っちゃって...あ、ほんと、いい事のおすそ分けなんで!気にしないで下さい!!」 顔を真っ赤にして、松木君は自分用に炭酸飲料を買ってその場で勢いよく飲んで盛大にむせた。 「だ、大丈夫?」 「ケホッ。だ、大丈夫で...すっ」 顔を真っ赤にしてむせる松木君がなんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。 「ふ、ふはっ!あはは。松木君、一気飲みはやばいよ」 「わ、笑われ...ケホッ」 むせながらも、松木君も一緒になって笑う。 他愛も無いことだけど、楽しい。 久しぶりに声を出して笑った。 笑い声も収まった頃、松木君が不意に真剣な表情をしてこっちを見た。 「...先輩。俺、萌乃とは付き合ってないです」 「...え?」 すっと、松木君の手が伸びてきて俺の瞳に溜まった涙を親指で拭う。 暖かい温もり。 「この間、誤解したみたいだから。もっと早く言いたかったんだけど、タイミング悪くて」 「...付き合ってない、の?仲良かったから、俺、邪魔しちゃ悪いと思って...」 「やっぱり!先輩急によそよそしくなるんだもん。...まぁ、誤解させたこっちも悪いですけどね」 遠い親戚なんです、って。そう言ってあの娘との話を聞かせてくれた。 心のどこかでずっしりと重たかった気持ちが軽くなるのが分かった。

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