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大きな手 です。
「俺、障害物リレー出るんだ」
「...そうなんだ」
自販機に小銭を入れ、いつものミルクティーのボタンを押した。
俺の姿を見た圭人がいつものようについてきた。なるべく距離をあけて歩くけど、圭人は1人で喋って、1人で笑っている。
「優羽は?玉入れ以外何か出るの?」
「...それだけ。」
「はは。運動苦手だもんな」
距離をあけてたはずなのに、圭人の手が俺の頭をポンポンと撫でた。不意な出来事に、とっさに反応できずに固まってしまう。
「...やめろ」
「なんで?優羽の髪の毛、柔らかくて触り心地良いよね。俺、好きだわ」
圭人の大きな手が俺の頭を撫で回す。
付き合ったばっかりの頃は、よくされた好きだった行為も今となっては複雑だ。
「...やだって」
すっと体をひねって圭人の手から逃れ、ミルクティーを取り出した。
「優羽」
背中を向けたままの俺の後ろの髪の毛を一房掴まれ、こっちを向けとばかりに引かれる。
「...何?いい加減にしろ」
ため息混じりに振り向けば、思ったよりも近い位置にいる圭人。
「やっとこっち向いた」
にっこりと笑う圭人。
髪の毛を掴んでいた手は滑るように俺の頬へと移動する。
「柔らかいな、ほっぺ。気持ちいい」
するする撫でて、そのまま軽く抓られる。
...覚えている。圭人はとにかく触れるのが好きだった。よく頭を撫でられた。頬を触られた。大きな手は、俺のものだった。
「...離して」
「...」
でも、それは少し前の事だ。
今の圭人の手は俺のものじゃない。
「...圭人。もぅ、俺たちはー...」
「優羽」
「...圭人」
力強い圭人の瞳が俺を真っ直ぐに捕らえる。
その瞳にうつる俺は今にも泣きそうだ。
ちゃんと言葉にしてこなかったか俺のせいだ。
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