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武藤萌乃ちゃん。

「...ちょっと、お時間いいですか?」 ポニーテールの彼女は彼といる時の可愛らしい笑顔とは程遠い険しい顔で俺に話しかけてきた。 武藤萌乃ちゃん。 前に見た時との印象が違うので、一瞬誰か分からなかったくらいの雰囲気で彼女は俺を人気のない屋上へと続く階段へと連れてきた。 「...どうしたの?」 着いてからも彼女は俯いて、何も言わない。沈黙が辛くて、そう話しかけた。 なんだか、心臓がバクバクして落ち着かないのは俺の方だ。こうして、わざわざ学年の違う俺に会いに来たって事、彼女の雰囲気からして良い話では無い事は分かった。 「...て...?」 小さな、小さな声は俺の耳に届かない。 「え?」 「太一郎と会わないで下さいっ!!」 「...っ!?」 強い意思を持った瞳が俺を射抜く。 嫌悪感剥き出しで、俺の事が大嫌いだと全身で言っている。 「...何、言って...」 言っている事が理解出来なくて。でも、頭を強く殴られたような衝撃を受けた。 「太一郎、先輩と会うようになってからちっとも構ってくれない。今までずっと私を優先してくれたのに。」 何もやましい事などしていない。後輩とご飯を食べているだけだ。...でも、俺は彼女の瞳を真っ直ぐに見ることができない。俺の気持ちは松木君に向いているのだから。 「...でも、俺、ただご飯食べてるだけで」 「先輩だから、...太一郎、優しいから断れないと思うんです。いつもいつも先輩の話ばっかりで。」 自分勝手な言い分に、言葉もでない。まるで、お気に入りの玩具を取られて拗ねている子供のように、自分の考えを押し付けている彼女に怒りさえ覚える。 「松木君は...」 「...私、見たんですよ」 「え?」 急に声のトーンが変わった。 松木君と一緒にいる時とまるっきり違う態度に面食らう。

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