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届かない。
ふらっとよろめくのを、足を踏ん張って耐えた。...でも、顔をあげる事ができない。彼女の顔を見れなかった。
「前に尾関先輩と一緒にいる時も仲良さげでしたもんね。そっかぁ。付き合ってたんだぁ?尾関先輩、どっちもいけそうですもんね。先輩、男にしたら可愛いし。」
「...っ!」
「太一郎、優しいしカッコイイから先輩がそういう目で見るの分かります。...でも、気持ち悪いからやめてよね!」
嬉しそうな凛の笑顔が浮かんだ。
喜んでくれる恋が嬉しかった。
俺が性別に囚われて苦しんでいたのを知っているから。...圭人との恋を知っているから。
今は陽だまりみたいに柔らかくて優しい恋をしている。...それだけだったのに。
その想いだけで幸せだったのに。
「もう、太一郎に会わないで下さいね。...ほんっと、男のくせに気持ち悪い!」
冷たい声が頭の中でグルグル回る。
彼女は可愛らしい瞳を鋭くして俺を睨み、足音大きくその場を去っていく。
「...はっ...ぁ...っ!」
呼吸するのが苦しい。
...胸が痛い。
痛む胸を抑えて蹲る。
「...松木、君」
零れた言葉は掠れて小さくて...誰の耳にも届かない。
「...松木...君」
何度名前を呼んでもこの声は...誰にも届かない。
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