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連れてこられたのは屋上。
圭人に手を引かれて連れて来られたのは屋上だった。普段は鍵がかけられていて立ち入り禁止のはずなのにそれも無く、俺と圭人は屋上にいた。
「なんだ、あの女。可愛くてもあんな性格だとブサイクだな」
心底呆れたような、嘲笑を含む声で圭人は言う。初めて見るような表情で知らない人のようだった。
フェンスにもたれて、先に座っていた圭人の隣に座る。
移動教室へ向かう声。グランドでの授業の準備の音。逃げるように来てしまった。圭人との事がバレてしまって。でも、何も言えなくて。自分の気持ちからも逃げたようで、気分は重い。色々な音が聞こえる中、俺は小さな声で言った。
「...ごめん。ありがとう」
「...謝んなって」
圭人と目が合う。先程の知らない人のような笑みではなく、以前の圭人のような優しい笑顔。
「...俺も、無理矢理連れ出して悪かった」
「...ううん。」
そこで会話が途絶えた。
俺も圭人も空を見上げて、何も話さなかった。雲一つないキレイな青空。
キレイすぎて泣きたくなる。
授業の始まる鐘の音が聞こえ、ざわついていた空気が静けさを取り戻す。
「...なぁ」
静寂を破ったのは圭人だった。
空から圭人へと視線を移す。
「...あのさ、今、こんな事 言うのどうかと思うんだけど」
「?」
「優羽。俺とまた付きーー」
バタンッ!
静かな屋上に不似合いな大きな音がして、思わず顔を圭人からそこへ移すと
「...松木、君」
雪崩込むようにドアから姿を現したのは、息を乱した松木君だった。顔を上げ、こっちを確認するとヨロヨロと近づいてくる。
「み、見つけ...先、輩」
「...来るの早ぇ」
チッと舌打ちして、圭人が腰を上げる。
「じゃぁな、優羽」
「え?あ、え?」
圭人は少し困ったように笑い、こちらを見ること無く手を振っていなくなってしまった。
展開に付いていけない。
「...先輩」
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