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少し前の話。
初めて先輩を見たのは、何でこんなの作ったんだろう?と入学当初から思っていた裏庭だった。そこには申し訳程度に置かれたベンチと、少しだけ花がある人気の無い場所。
まぁ、おかげで気にすることなくピアノ弾けるから良いんだけど。
そこで、先輩は泣いていた。
人が居るのが珍しくて思わず目をやったベンチに座っていた先輩は、空を見上げて拭うでも無く涙を流していた。声を上げるでもなく、握りしめている手は白くなり、華奢な肩を震わせ、大きな瞳からボロボロ涙を流していて。
不謹慎にも、俺の胸は高鳴った。
儚げな、今にも消えてしまいそうな先輩の姿によく知りもしないこの人を守りたいと強く思った。
「...あの...っ!」
「優羽っ!!」
意を決して声をかけるけど、それをかき消す程の切羽詰まった声に俺の声は消えていった。
風のような速さで現れた大きな男の人が、泣いている先輩を抱きしめる。先輩は、彼の腕の中で堪えきれずに声を上げて泣いた。
子供のような泣き方で、こっちまで泣きたくなるほど痛々しかった。
俺は伸ばしかけた手を握りしめた。
声をかけてどうするつもりだった?
彼の涙を止めてあげられるのは俺じゃない。
ーそれが、すごく悔しかった。
可愛い子も綺麗な子も、周りにはいっぱい居て。萌乃はその中でも群を抜いて可愛かったと思う。小さい頃から一緒に居すぎて俺は異性として萌乃を見る事ができなかった。
...萌乃の気持ちも何となく気づいていたが知らないフリをしていた。
頭の中にはあの日の先輩の姿しかない。
男だって分かっているけど、どんな可愛い子よりも綺麗な子よりもあの先輩の姿が離れない。
その後、何日か経って笑顔の先輩を見かけた。泣いている顔の何十倍も俺の胸を高鳴らせた。
「...見つけた」
音楽室で出会う 少し前の話。
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