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先輩。
「...先輩」
松木君は、ゆっくりと俺のところに歩いてくる。
「先輩」
俺の前に来るとしゃがんで目線を合わせる。
先程まで乱れていた呼吸はいつも通り。
「先輩」
「松木、君」
俺を腕の中に閉じ込めるように両手を伸ばし、フェンスを掴む。
ガシャン。
乾いた音が響く。
思わぬ至近距離に、恥ずかしくて俯く俺の視界には松木君の足が見える。折り曲げられた足はそれでも長さが分かる。なんて、気をそらそうにも近すぎてもぅそれどころじゃない。
「先輩」
耳元で聞こえた松木君の優しい声。
「先輩」
「...うん」
「先輩」
「...うん」
「優羽」
「...ぅ...え?」
「...先輩」
「...」
恥ずかしくて、頷く。
頭が痛くなるほど、どこから聞こえてるのか分からないほど、鼓動が身体中に響いている。
体育座りをしてた俺は、恥ずかしくてたまらなくて顔を足との間に埋める。
「...はぁぁぁぁ」
松木君が耳元ですごいため息をついて、その大きな音に思わず体がビクッと反応した。
「あ、すみません」
「...うん」
「...すみません ついでに、ごめんなさい」
「...ぇ、あ」
そのまま、松木君に抱きしめられた。
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