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抱きしめられる。
どことなく、柑橘系の匂いと汗の匂い。
ふざけて山根に抱きしめられる事もあるけれど、当たり前だけど全然違う。
細いと思っていたけど、しっかりとした筋肉を感じた。
「ま、松木君...」
「...すみません。もう少しだけ、このままで」
更にギュッと抱きしめられ、俺の左耳と松木君の右耳が触れる。吐息も分かる距離。
「...萌乃の事、すみません」
「...っ、」
体が強張るのが分かったのか、遠慮がちに大きな手が俺の頭を撫でる。
「先輩を傷つけるつもり無くて...俺、先輩の笑顔を守りたいって思ってたのに」
小さく首を振るけど、強く抱きしめられているから動けない。
俺が勝手に幸せな気分を味わっていただけ。遠くから見ているだけで良かったのに。
多くを望んでいなかったのに、それでも、松木君と一緒にいると楽しくて欲が膨らんできたんだ。...見る人が分かるほどに。
「...尾関先輩と」
「...ぇ?」
「尾関先輩と...付き合ってたんですか?」
顔を上げようにも動ける範囲が小さい。
「...うん」
自分でも情け無いほどの小さい声だった。
「...あなたを泣かせてたのは、あいつか」
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