49 / 93

抱きしめられる。

どことなく、柑橘系の匂いと汗の匂い。 ふざけて山根に抱きしめられる事もあるけれど、当たり前だけど全然違う。 細いと思っていたけど、しっかりとした筋肉を感じた。 「ま、松木君...」 「...すみません。もう少しだけ、このままで」 更にギュッと抱きしめられ、俺の左耳と松木君の右耳が触れる。吐息も分かる距離。 「...萌乃の事、すみません」 「...っ、」 体が強張るのが分かったのか、遠慮がちに大きな手が俺の頭を撫でる。 「先輩を傷つけるつもり無くて...俺、先輩の笑顔を守りたいって思ってたのに」 小さく首を振るけど、強く抱きしめられているから動けない。 俺が勝手に幸せな気分を味わっていただけ。遠くから見ているだけで良かったのに。 多くを望んでいなかったのに、それでも、松木君と一緒にいると楽しくて欲が膨らんできたんだ。...見る人が分かるほどに。 「...尾関先輩と」 「...ぇ?」 「尾関先輩と...付き合ってたんですか?」 顔を上げようにも動ける範囲が小さい。 「...うん」 自分でも情け無いほどの小さい声だった。 「...あなたを泣かせてたのは、あいつか」

ともだちにシェアしよう!