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スローモーション。
松木君の大きな手が俺の頭を撫でる。わしゃわしゃってして、乱れた髪を直す、を何度か繰り返す。
「...松木君」
「はい?...あ!すみません。今の先輩の顔、めちゃ可愛かったので思わず」
松木君はよく俺の頭を撫でる。前に頭を触って気持ち良かったからだそうで。
...時々、耳も触られてその度に俺は震えるんだけど、松木君は笑うだけでその手を止めてくれない。
「...先輩、可愛い」
いつものふにゃっとした笑い方じゃなくて、甘さの中に男らしさを加えて笑う松木君に心臓がキュンっと締め付けられる。いつも少し意地悪な松木君に仕返ししたくて、俺は耳に触れている松木君の手に擦り寄った。恥ずかしいので目を閉じて。
「...っつ!?」
ピクンっと松木君の手が動きを止める。
松木君の手はほんとに綺麗で大きくて、その手に俺の顔は包まれて暖かくて気持ち良かった。目を開けて松木君を見ると、顔を赤くして俺を見ていて、手を通じて熱さが伝わってくるようで、自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
そっと、松木君の親指が俺の唇の端に触れた。少し掠めたくらいの速さでいなくなると、また、ちょん、と軽く触れてくる。
恥ずかしくて、松木君から視線を外した。
ちょん、ちょん、ちょん。
余りにも何度も触れてくるのでなんだか変な感じがして、恥ずかしさもあって誤魔化したい気分で笑ってしまった。そして、松木君に目を戻すと...
少しタレた瞳の奥で、見たことない色で揺らめいて俺を見ていた。
「松 木く...んっ!」
ガタッ!!
勢いよく立ち上がった松木君。反射で椅子が大きな音を立てて後ろに倒れていく。瞳の端に捉えたそれは、スローモーションのようだった。
強い衝撃がくるかと思えば。
唇には、柔らかい感触。
これ以上は開かないほど開かれた俺の瞳に映るのは、そんな俺を見つめたままの松木君のドアップだった。
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