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手紙。
ほんとに寂しそうに眉毛も下げて残念がる松木君が可愛い。背の高い彼の頭を背伸びして撫でる。
「...先輩。へへ」
へにゃーっと笑うと覆いかぶさってきて、体重をかけられて重い。
「お、重いよ。松木君」
「だってー。」
「松木君の髪の毛、やっぱり気持ちいいね。柔らかい」
わしゃわしゃ撫で回したから、松木君の髪の毛はボサボサだ。それでも男前だけど。
「先輩と一緒に帰れないなんて、寂しい」
素直な松木君は可愛い。男前なのに可愛いなんてズルイ。
「俺も...寂しいけど、放課後だけなんだよね?」
「放課後だけです!!」
「朝もお昼も会えるし。松木君、練習頑張って。体育祭、楽しみにしてる」
大丈夫って笑ってみせると、松木君もへにゃって笑ってくれた。
次の日の朝は、なかなか離れようとしない松木君に苦労した。それでもなんとか引き剥がし、自分の靴箱を開けるとスリッパの上に手紙があった。
「...」
ラブレター?と瞬時に思ったが今までそういう類のものは貰ったことがない。勘違い。恥ずかしい。
手紙を開封する。シンプルで真っ白のそれは1枚の用紙が入っていて...
どくんっ。
心臓の音が身体中に響く。次いで、身体中の力が抜けていくような感覚。
「...っ!」
なに、これ...
手紙を握る手が震える。
「おはよう。矢作くん」
いつまで経っても手紙を握りしめたまま動かない俺に通りかかったクラスの女子が声をかける。
「何?どうかした?」
「う、ううん!!なんでもない!!おはよ。山根待ってるんだ」
慌てて誤魔化し彼女が去るのを待って、もう1度手紙に目を向ける。
ーキモチワルイー
定規でもあてて書いたのか不自然に角張った字があるだけだった。
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