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気づきました。
ーキモチワルイー
から始まった手紙は続く。
気にしないように、と思っていても毎朝靴箱を開く時は緊張してしまう。そして、見つけた時は一気に気持ちが下がっていく。
ーオトコズキー
ーインランー
言葉の刃は容赦ない。
それは、俺への性癖への言葉だと分かった。誰かが、俺の事を知っている。その事が怖い。
「先輩?」
昼休みにいつもの音楽室で。
ぼーっとしていたら、松木君に頬を両手で潰すように掴まれる。むにゅっと。
「...なんれすか?」
「へへ。口がタコみたいで可愛いね」
ふにゃっと笑う松木君を見上げる。
体育祭りの練習で日焼けした松木君の顔は相変わらずかっこよくて、口がタコになってるのも忘れて見惚れてしまう。
「...何かありました?」
「へ?」
「ここ」
頬を掴んでいた手を離し、眉間をとんとん叩かれる。
「なんか、すごい皺寄ってますよ」
「...っ!!」
慌てて眉間を押さえると、松木君が笑う。
「最近、なんか元気ないなぁって思って」
松木君の言葉にドキッとする。なるべくいつも通りに振舞っているつもりなのに。
「あ、ううん。なんでも、ないよ。ちょっと寝不足」
「...ほんと?」
声は優しいのに、眉毛が困ったように下がっていて心配させているんだな、と実感した。
「うん。山根に借りたDVDが面白くて続きが気になって眠れないんだ」
ダメだね、って笑う俺に松木君も笑ってくれるけど、瞳が心配そうにこっちを見ている。
「じゃ、ちょっとお昼寝します?」
「へ?ここで?」
「うん。ちゃんと起こしますよ」
「...うん」
お言葉に甘えて、机に突っ伏す。DVDは嘘だけど、あの手紙が気になって睡眠不足なのは確かだ。
「おやすみ、先輩」
松木君の大きな手が俺の頭を撫でる。優しい手つきにまんまと眠気が訪れる。
あぁ、気持ちいいな。
心地良さにうっとりして。もう意識がなくなる寸前、急に頭の中に言葉が浮かぶ。
ーオトコズキー
がばっと勢いよく頭を上げる。
「わっ!?...どうしたの?」
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