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さり気ない優しさに。
ポニーテールの子。
そう言われて頭に浮かんだのは武藤萌乃ちゃんだった。反射的に太田君を見ると驚愕に目を見開いている。その顔が全てを肯定しているようで...。
体中から一気に力が抜けていく。
「...っと。優羽?」
フラついた俺を後ろから虹太兄ちゃんが支えてくれる。
「大丈夫か?」
「あ、ごめっ、...大丈夫」
「...っ!先輩、俺、」
分からない。太田君の意図が分からない、けど。今、自分の中で渦巻いている感情は負で。頭が真っ白で何も考えられない。
そういえば、松木君と太田君と武藤萌乃ちゃんは幼馴染みだと言っていた。男の俺より、萌乃ちゃんの方が良いのは...当たり前だ。
仕方ない事なのかもしれない。...でも、心の中のもやもやが晴れない。
太田君は今にも泣きそうな顔で俺を見ている。
俺も泣きそうだよ。
「...っ、先輩!」
「おい。優羽に近づくな!」
1歩近づいた太田君に不機嫌に声を荒らげた虹太兄ちゃんが俺を背中に隠してくれる。
「なんかよく分かんないけど、とりあえず離れて?」
ね?と穏やかな声で太田君を静止してくれる須田さんもさり気なく俺と虹太兄ちゃんの前に立って隠してくれた。
「...虹太兄ちゃん、須田さん。ごめんなさい。ありがとう」
さり気ない優しさが嬉しくて、少しショックが和らいだ。そして、このままではダメな気がした。今、ここから去るのは簡単。でも、それで問題解決にはならないのは分かりきっていた。今回の問題は延ばせば延ばすほど心を苦しめる気がして。
今日の俺は、問題を解決しに来たんだから。向き合うって決めたんだから。
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