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嬉しいんです。
あんなに強く抱きしめられていたのに、松木君はあっという間に俺を圭人から離して自分の方へと引き寄せた。
「...なんだよ?」
「これ以上はダメです」
「なんで?」
「.....」
松木君は何も言わないけど、久しぶりに近くで感じる彼の体温は暖かい。
見上げると、松木君は眉間にシワを寄せて困ったような表情をしていた。
「...なんでも、です」
「...」
「...ぷーっ!!なんだよ、それ。おま、あはは」
爆笑する圭人に、松木君はむくれたように頬を少し膨らませて 俺の手を取って歩き出す。
「ちょ、おい、待てよ」
「待ちません」
「あはは。あー、ウケる。...そんな表情すんなら、ちゃんと捕まえておかねーと俺みたいなのにイタズラされちゃうよ?」
松木君は立ち止まらずに進む。手を掴まれたままの俺は後ろを振り返ると満足そうに笑う圭人が見えた。小さく手を振っている。一瞬どうしようか悩み、それに手を振り返して前を向く。
握られた手が嬉しいなんて。
「...すみません」
急に立ち止まった松木君は、俯いて小さな声で謝った。
「あ、...うん。平気」
繋がれた手が熱くてたまらない。
繋がれた手に全神経を支配されてるようだ。
「あ、でも、俺 何もされてないからね?目にゴミが入ったからそれ取ってもらったっていうかなんて言うか...あの、その、へ、変なこととかしてないから」
久しぶり過ぎて、どう話していいかも分からなくて饒舌になる。しどろもどろだけど。
情けない。
俯いた先に見える松木君の綺麗な手。
繋がれた手が…やっぱり嬉しい。
「...すみません、俺、なんか…勘違いしたみたいで」
ギュッと俺の手を握りしめる松木君の大きくて綺麗な手。
「あは、勘違い、しちゃうよね、圭人だし」
今までの経緯を知ってる松木君なら尚更だ。自分で笑っておいて、今更恥ずかしい。松木君には色々と見られているもんな。
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