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鼻の奥がツンと痛んだけど。

「...すみません」 何度も謝る松木君に俺は同じくらいに「いいよ」と「謝らないで」の言葉を送る。 手は繋がれたまま。 どのくらい経ったのか、昼ご飯を終えた生徒のざわめきが聞こえ始めた。 …手、離さなきゃ。見られてしまう。 俯いたままの松木君。 離さなきゃいけないのに、離したくない自分。 なんだか悲しくなってきて、どうしてこうなったのかとぼんやり考えてしまう。散々考えても考えても分からなかったけど。 「…あの!俺」 「あ、いた!太一郎!障害物リレーの呼び出しされて…先輩?」 探しに来たらしい太田君が俺を見て驚いたように目を見開いた。被さって口を開いていた松木君はまた口を閉じてしまう。 「…あ、久しぶり、太田君。じゃ、じゃあ、俺 もう行くね」 手を離した。繋がれていた手はするりと解けて瞬時に冷える。冷たさに耐えるように逆の手で繋がれていた手を握りしめる。 「…あ、いやいや、大丈夫です!まだ時間あるし!あっと…すみません俺、邪魔しちゃって」 慌てだした太田君にも 大丈夫 と声をかけてその場を去る。松木君は俯いていてその表情はよく分からなかった。足早にその場を去る事しか考えられなかった。 胸が、まだドキドキしている。 まさか喋れるとは思わなかった。 また…手を繋げるなんて思わなかった。 鼻の奥がツンと痛んだけど、繋いだ手の温もりを思い出したら 胸が暖かくなった。 …好きだ。松木君のことが好き。大好きだ。 再度認識した想いは大きくて溢れそうで。 また、あの手に触れたい。 そう強く思った。

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