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I fall in love:乱される気持ち

 平日の学校午後12時半、売店で買ったおにぎりとお茶を手にし、ひとりきりで屋上にて食べていた。  6月上旬だけどそこまで蒸し暑くなく、時折吹いてくる風がとても心地よい。 「学校でも勉強して、塾でも勉強して……あ~、いつまで続くのかな」  受験が終わっても、勉強しなきゃいけない現実に、思わず愚痴ってしまう。  最後のおにぎり一口を頬張り、冷たいお茶を一気飲み。そのお蔭で、身が引き締まった気がした。 「さてと。そろそろ戻って、移動の準備すっか」  腕時計を見ながら立ち上がった時、中庭のベンチに腰掛けた水野を発見。 「アイツ……何、やってんだ?」  思わず屋上から身を乗り出して、何をしてるのか見下してしまう。  図面の様な大きい紙を覗きこみ、難しい顔をして、真剣に何かを考え込んでいる様子に見えた。 「奴が気になるのかね、少年?」  突然後ろから声をかけられたので、ビックリするしかない。足音と気配を、全然感じなかったぞ。  恐るおそる振り返り、声の主を確認してみた。 「えっと、デカ長さん。でしたっけ?」 「驚かせてしまって、済まないね」  人の良さそうな垂れた目を更に細くして、俺をじっと見つめる。 「やっぱ高い所からの眺めってのは、いいもんだなぁ。地上で犯人追っかけてばかりいると、気が滅入っていけねぇや!」  そう言って、うーんと伸びをして、気持ち良さそうにしていた。 「あのバカもこっち来て、まずは全体像を把握すりゃいいのにな。あんな所で小難しい事を考えったって、何も掴めないだろうに」 「うちの学校……何か事件に、巻き込まれてるんですか?」  俺が質問すると、デカ長さんは腕を組み、少し考える仕草をする。 「俺の質問に答えたら、教えてあげてもいいぞ?」  水野みたいな、変な質問……この人がするワケがないよな。  という一抹の不安を抱えつつ、俺はコクリと頷いた。 「この学校に隠したい問題や事件、何かあるかい? 誰かに強く恨まれていたり……とか」 「う~ん……。俺が知っている部分についてですが、正直問題自体ないと思います。イジメも分かり次第、対処しているし……校則もきつ過ぎず緩すぎずだけど」  顎に手を当てて必死に考える俺を見ながら、しっかりメモを取るデカ長さん。 「だけどってことは、何か気になる点でもあるのかい?」 「他の奴らは、どう思ってるか分からないんですけど……教頭が口やかましくて、それがウザいかなって。やれ外では問題起こすなとか、女子にはよく制服の乱れを指摘したりして」 「ああ、そういやここの学校は珍しく、女の教頭だったっけ。女だけに余計、口うるさくなるのかもな」  苦笑いをしながら、パタンとメモ帳を閉じて、胸ポケットにしまう。その雰囲気が、ドラマで見る刑事と同じだ。 「学校に恨みってワケじゃないので、正直何とも言えないんですけど……」 「いやいや、そんなことはない。教えてくれてありがとな少年。じゃあ俺から事件について、じっくりと教えようか」  さっきまでの雰囲気とは一転、見えない緊張感が走った。息を飲み両手に拳を作って、ぎゅっと握りしめる。 「この学校に、爆弾を仕掛けるという脅迫状が、最近届いたんだ。期末テストを中止しろって」 「何か、生徒のいたずらみたいですね」 「いたずらで終わればいいんだが……一応事件だから、調べなきゃならないんだ。こういうの、ウチの管轄だから」  肩をすくめて両腕をW型にし、しょうがない感をアピール。世の中、迷惑なことをする奴がいたもんだ。 「捜査の関係で、ちょくちょく学校に顔出すと思うんで、何かあったらまた協力頼むよ」 「はい、出来る限り……」  そう答えるとデカ長さんは、俺の頭を優しく撫でてから、屋上を出て行った。  その掌の温かさ――ほんわかと癒された感じ。親に頭を撫でられたのって、いつだっただろう? ここのところ、叱られた記憶しかなかったから。  胸にほっこりとしたぬくもりを感じながら、後を追うように屋上を出たのだった。

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