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I fall in love:乱される気持ち②

***   「おっ、ツン発見!!」  放課後、教室から廊下に出た瞬間、ガバッと羽交い絞めにされてしまった。水野の方が無駄に背が高いので、見下ろされる形になる。 「三年の教室、張っててビンゴ。しかも二組だと思ったんだよね。刑事の勘、バリバリ働くわ」  こんなくだらないトコで、刑事の勘を働かせるなっちゅ~の。――本職に生かせよな。  俺はお決まりよろしく、顔を思いっきり引きつらせてみせた。 「何か用ですか? 水野さん……」 「またそんな、つれない態度しちゃって。会いたかったから、会いに来たんだよ?」 「だからって、何で抱きつくんですか。かなぁり迷惑ですっ!」  ホントに迷惑だったから、語気を強めて言ったのに、それをまったく聞かず、どこ吹く風状態の態度を貫いてきた。  今度は俺の首に馴れ馴れしく腕を回してきて、耳元で囁くように告げる。 「俺はツンのこと、すっごく気に入ってるのにな~。そういう素直じゃないトコとかさ」 「素直に迷惑してるんですけどっ! しかも嫌いなんですけどっ!」 「嫌い嫌いも好きのうちって言葉があるの、知ってるかなぁ?」  あ~言えば、こう言う。それが嫌いに対して、どんどん拍車がかかってるのが分かんないのかよ!? マジで、イライラするな―― 「だからベタベタすんなよ。気持ち悪いなアンタ……ゲイなんじゃないのか?」  俺は冗談のつもりで言ったのだ。こう言えば普通は、離れてくれるだろうって。なのに―― 「そうだよ。人種差別すんの?」  水野は、あっけらかんと答えてくれたのである。それがどうしたという態度に、開いた口が塞がらない。  俺はびっくりして、全力で水野の腕から逃れ、背中を壁際にくっつけた。  こんな鬼気迫る状況なのに、焦りまくる俺に声をかけず、級友他同級生たちは塾や家路を急いで、目の前をさっさと通り過ぎて行く。 「なっ……なな、な」 「ナニがしたい?」  ナニって何? 一体ナニ? 頭の中が、超パニックである。 「だっだっ、だ……」 「抱きしめて欲しい?」  ぶんぶんと激しく、首を横に振ってやった。そうじゃない。だから…… 「近づくな。それ以上近づくなよ、水野っ!」 「もうツンってば、照れ屋さんなんだから、分かったよ。これ以上そばに行かないから、どうか安心して下さい」  ひょろひょろした体をクネクネさせて、微笑む姿が超絶気持ち悪い。 「俺に手を出しても、無駄だからな。つぅか未成年だし、女以外に興味はないからな!」 「分かってるってば。ツンには手を出さないよ。むしろ出してほしいんですけど、俺としては。その唇で俺の――」 「わ~! だから変なことを言うなよ! ただでさえ勉強のし過ぎで、頭おかしくなってるトコに、変な薬を注入するなって!」 「ツンの薬を是非とも注入して欲しいのは、俺だっていうのに……まったく。つれないんだからぁ」  頭を抱えて怯える俺を、水野は呆れた眼差しで見つめ、深い溜息をついた時に、それは起こった。  一瞬、何があったのか理解出来ずにいた。気付いたら、水野の腕の中にいる自分。次の瞬間、ガラスの割れる音と一緒に、硬い物が壁にぶつかる音が聞こえてきたんだ。 「おい、大丈夫か? どっか怪我してない?」    スッと体を離して、心配そうに見つめられる。  水野の方が背は高いけど、俺の方が体格がガッチリしてるので、体重差は歴然……その細い体のどこに、そんな力があるというのだろう?  ぼんやりする俺に、水野は両手で何かを揉むような仕草をしながら、大声で呼びかけ続けた。 「もしもぉし! ツン、頭でも打ったかぁ? 答えないと、どっか触っちゃうよ?」 「……どこも、怪我してねぇよ。大丈夫だから触んな……」 「はいはい、仰せのままに」  苦笑いしながら、両手をわざわざバンザイの形にする。そんなポーズをしたからか俺の視線の先に、左手小指付近から血が出ているのが目に留まった。 「ちょっ……」  お前が怪我してんじゃねぇか。  そう声を、かけようとしたのだが―― 「え~っと、生徒諸君。現場保持のため、ご協力をお願いしますね。ここら辺、近づかないように!」  騒ぎを聞きつけた生徒が、野次馬になって集まり始めていた。  交通整理をするお巡りさん宜しく、身振り手振りで人だかりを捌きながら、スマホで応援要請をしている水野。  邪魔にならないように、その場を立ち去ろうとしたら、右足にガツッと何かが当たった。  足元を見ると大きな石が転がっていて、それには『死ね』と黒いマジックで書かれた文字があり、思わずゾッとする。 (――俺を狙って誰かが、石を投げ入れてきたのか!?)  イヤな不安感がじわじわっと胸を支配し、気持ち悪さに口元を押さえてしまった。  そんなふらつく体を支えるべく、壁に寄り掛かろうとしたら、後ろから優しく抱き留められる。次の瞬間、温かい両腕がそっと、俺の体を包み込んだ。  その居心地の良さに、思わずホッとしてしまって。息を吐きながら、寄りかかってみる。 「気分、悪くなった? ビックリしたもんね。保健室に行く?」 「保健室ならアンタが行けよ。手、切れてるぜ」  水野の声に我に返って、抱き留められた手を外しつつ、タイミングよく左手を掴んでやり、怪我をしている箇所を見せてやった。派手に血が流れ出て、ワイシャツの袖口を染めている様子に、きゅっと眉根を寄せる。 「ありゃりゃ……」 「人のことよりも、自分を大事にしろよな。じゃないと、周りが迷惑するんだぜ」  睨みをきかせながら言い放ち、投げ捨てるように、水野の手を放り投げたのに。その手を、嬉しそうな表情を浮かべながら、右手で握り締めた。 「何かツンに大切にされてる感が、結構満載……」 「あのなぁ……。勘違いしてんじゃねぇよ、まったく。アンタに何かあったらこの現場が、滅茶苦茶にされるだろうが! しかも誰がその無駄な長身を引きずって、保健室に連れて行かなきゃならないと思ってるんだ」  いつものごとく、うんと顔を引きつらせて、あからさますぎるような、大きなため息をついた。 「勿論、ツンが運んでくれるんだよねっ? 優しく保健室まで連行されるのか。俺……」  怪我をしているというのに、変な妄想して、あらぬ方向を見ている。  何だよ、このウキウキモード。10代の乙女じゃないだろうに。激しく頭が痛くなってきた……  水野と俺がとんちんかんな、やり取りをしてる間に応援がやって来た。 (すごく助かったぜ)  現場にいた俺たちは、簡単な事情聴取され解放される。その後、水野の怪我を治療するために、そろって保健室へ向かったのだった。

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