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I fall in love:正直な気持ち③
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呆然としている俺たちの元へ、先ほど応援要請した警察官たちが、なだれ込んでくる。倉庫内に響くメロディに、一同唖然としていた。
「水野……これはどういう状況なのか説明しろよ? 漏れなくな」
デカ長さんが笑顔を引きつらせながら、俺たちを見る。そんな視線を水野は無視して、俺の耳元でコソコソ喋った。
「漏れなく説明しなきゃならないということは、さっきのアレとかコレも詳しく、ねっこり言わなきゃならないよね?」
「お前、何を言ってやがる。ダメに決まってんだろ……」
「だって解体していれば、こんなことにはならなかったんだよ。ツンが押し倒して、あんなチュウするからさぁ」
言いながら、俺の顔を意味深に覗き込む。その視線にあのときの状況を、いろいろ思い出し、ぶわっと赤面してしまった。
「あっ、あれはだな、しょうがなかったんだっ! 危険回避するための、応急処置みたいなっ!」
「応急処置のわりには、随分と念入りにしてくれたよね。高校生の君が、どこであんなことを教わったのかな?」
上目遣いで俺を見る、水野の視線が痛すぎる。
(言えるワケねぇだろ、女子大生の家庭教師とデキてたなんて――)
「企業秘密だよ、教えてやるもんかバカ! それよりもさっき言ってた、お前の台詞の方が、気になるんだけど。後者ってなんだよ?」
形勢逆転。俺が腕を組んで睨みながら言うと、水野の笑顔がカチンと凍りついた。
「あ~……えっとね」
「コラッ、お前ら、何をぐちゃぐちゃ喋ってるんだ。水野、何でお前は、解体しなかったんだ?」
しびれを切らした、デカ長さんが怒鳴る。
「俺は解体しようとしたんですが、ツンに止められたんですよ。強引に押し倒されて」
「水野っ!?」
――ちょっ、アレを言ってしまうのか!?
「ほらツンにしたら、非日常的なことが起こって、パニックになったみたいで。爆弾に触ったら俺が死ぬと思ったらしく、そのまま強引に、あのロッカーに軟禁されたんです。お前は絶対に、生きなきゃならないんだからって」
俺を慈しむように見て、ふわりと微笑む水野。半分は真実を語っていたので、口を挟むことなく頷いてやった。
「そうか。少年は水野を、何としてでも助けたかったんだな。それなら、しょうがないか……」
デカ長さんが納得したように、俺を見た。水野とデカ長さんの言葉のお蔭で、そこはかとなく、いい雰囲気が漂っている。
そんな和やかなところに悪いが、俺の別の本心を語らせてもらうぜ!
「いや~。正直、助けたい以前に水野が爆弾に触ったら、一緒に死んでしまいそうで、マジで怖かったんです。今までの行動見ていたら、超不安になってしまって」
体を震わせ怯えながら言うと、後方で仕事をしていた鑑識の人が、ゲラゲラ声を立てて笑う。
「ちょっゲンさん、笑い過ぎじゃないですか。酷いなぁ……。あっ、そうそう、これの指紋照合も、急ぎで頼みます。犯人の手かがりに絶対なりますから」
水野は胸ポケットから、例のカードを取り出して、鑑識の人に手渡した。
「いつも上手いこと、最後の一押しに使うねぇ。それを言われちゃうと、どうしてもやらなきゃいけない気になるもんな。ミズノン」
「あはは、すみません。いつも無理言って」
「そこの高校生にも、何か無理なお願いしたんだろ? おねだり上手だから。なっ、高校生?」
突然話を振られ何と返していいか、正直困ってしまった。お願い(もしくはおねだり)のオンパレードだった記憶が、まざまざと鮮明に蘇る。
「水野さん、ちょこっとツラ、貸してもらえませんかね? 外までご同行、お願いします」
俺は笑いながら、水野の襟首を鷲掴みし、引きずるように歩を進ませる。
「わ~、ゴタが始まるのかな? ミズノン、頑張ってね~」←ゴタとは揉め事
「日頃の行いの悪さを、思い知ればいいんだ。潰していいぞ、少年」
口々に言いたいことを言われ、顔面蒼白の水野。
「わわっ! ツン、痛いことをするの?」
「水野の返答次第、だな」
ほくそ笑みを浮かべると、顔を激しく引きつらせた。いつもとは、逆のパターンである。
そのまま体育館の倉庫の近くにある、奥まった校舎裏に引っ張ってやった。
「つまり……爆発しないという後者の確率が高い中で、いろいろおねだりしたんだな。水野?」
「おねだりじゃないよ。お願いだったりアレコレ、知りたがったり……ツンのことになると、見境なくなっちゃってさぁ」
頭をポリポリ掻きながら、言い訳をする水野。いい大人があの状況で、見境なくなって、どうするよ!?
その台詞にカチンときた俺は、無言で水野の襟首を両手で掴み、無理矢理壁際に押しつけた。
「ちょっとツン乱暴、背中が痛いって……」
「俺を騙した罰だ、詐欺罪だよ。水野」
「だったらツンだって、泥棒なんだから。俺の心を盗んだ窃盗罪!」
強引に壁へ押し付けられて、背中が痛いだろうに、俺のことを愛しそうに見つめる。
「そんなモノ、盗んだ覚えはねぇよ……バカ」
「まったく、素直じゃないんだから。俺のことを好きって言ったくせに」
「うっ……。あれは好きかもしんないと言っただけで、好きじゃないっていう意味も、含まれてるんだって」
「そうやって、苦しまぎれの嘘をつく。偽証罪認定、ツンの負けだよ」
言い終わらない内に右腕を掴まれ、流れるような所作で俺の腕から逃れたと思ったら、形勢逆転させる水野。
「現職警察官を甘く見ないで欲しいな。君を捕らえるのなんて、簡単に出来るんだから」
何が起こったのか分からず、ポカーンとした俺を、真剣な眼差しをした水野が見つめてきた。その視線に捕らわれ、金縛りにかかったように動けない。胸が……ドキドキする。
「ふたりして、無傷で生還したんだ。約束どおりあのキス、してもらおうか」
熱を帯びた視線に、どうしていいか分からず、おどおどしてしまう。今までこんな、危機的な状況に陥ったことがないので、対応にえらく困った。
「何、無茶苦茶、言ってやがる。あれは爆発が起きてっていう前提だ。勘違い、すんな……」
どうして水野は大人で、俺はガキなんだ……こんな迫り方、絶対ズルい。
「そんなこと、一言も言ってなかった。なので却下、ほら早くしてよ?」
俺を強く押さえつけた水野は、ぐいっと顔を近づけてくる。ドキドキを知られたくなくて、慌てて顔を背けた。
「俺としてはこれ以上、罪を重ねて欲しくないなあ。じゃないとこっちから、チュウしちゃうよ?」
ダメだ……これ以上水野が近づくと、心臓が破裂してしまう!
「ちょっ、脅迫すんな! それ以上顔を近付けんじゃねぇって。照れんだろ……」
ジタバタして逃れようとする俺を、押さえつけた力が急に解放される。目の前には、どこか呆れ顔の水野がいた。
「ツンって、アメとムチの使い方が絶妙だよね。ムチムチムチアメみたいな。アメ、小さいけど、すっごい極甘なんだ。だから堪らなくなる……」
おいおい……何に対してのアメとムチだ?
「そんな使い方……してる覚えねぇし」
ひどく呆れて油断している水野に、すくい上げるようなキスを一瞬した。ついでに、頬にもしてやる。
「最後のはオマケだ、喜べ」
「オマケって……こんなお子さまなチュウ、大人は喜べないよ」
「うるせぇな、俺はイヤなんだよ。水野に見下ろされてるのが……絶対にお前より背、高くなってやる!」
何だよ水野、こんなお子さまのチュウとか文句言ってる割りには、嬉しそうな顔して。俺よりも子供みたいだ。
「はいはい。せいぜい牛乳いっぱい飲んで、頑張って下さい」
「俺、大学受験やめる……」
「はいはい。たくさん勉強して、大学受験やめ、るぅ?」
ポツリと呟いた俺の言葉に、水野は唖然とした。
「警察官になって、水野を凝らしめてやるんだ。うん!」
頷きながら右手に、ガッツポーズを作る俺。
「何か、日本語おかしくないかい? 俺じゃなくて、犯人じゃないの?」
「お前みたいな変な刑事に、この街は預けられねぇよ。俺がたくさん犯人取っ捕まえて、水野をギャフンと言わせてやるんだ!」
俺の発言に、水野はうんと顔を引きつらせた。
「そんなに治安が悪い所じゃないから、たくさん犯人なんて、捕まらないからね。それに大学へ行ってからでも、警察官になれるよ。キャリア組って言うんだけど」
そんな安易に、自分の将来を決めるなよと言いながら、心配そうな顔をして、俺の様子を伺う。
(やっぱ分かんねぇよな、相変わらず鈍い――)
「ふん。そんなの時間の無駄だね、待ってらんねぇよ。だから水野、俺の勉強の面倒を見ろよな。責任はお前にあるんだから」
何とかして、一緒にいる時間を作りたいんだよ。バカ……
「どうして俺に責任、擦り付けるかなぁ。仕事してるからなかなか、時間を作るのは難しいと思うよ」
頭を抱え身悶える水野を見て、思わず笑ってしまう。
「一緒にいる時間が増えれば、俺のことを落とせるかもしれないぜ?」
「は?」
「俺はお前のことを、好きかもしんないと言った。だけどそれを言わせたのは、緊急事態だったからなんだぞ。まだ完全な好きじゃねぇんだ」
「……ガーン。そうなの?」
口をあんぐりして、水野がショックを表す。
「現職の刑事が高校生ひとり、落とせないなんてなぁ……」
「ムッ、言ってくれたね。翼」
さっきとは一転、キッと俺を一睨みする。
ふん。水野に睨まれても、全然怖くないから。ここはガキなりの意地を、しっかり張らせてもらうぜ。
「簡単に落ちてたまるかよ、バカ」
そんな台詞を言いつつも、実際はいい感じに落ちてるんだよな、俺ってば……。何でこんな変なヤツ、好きになったんだろう。
「何か上手いこと言われて、手懐けられてるような気分、満載……」
俺と同じように複雑な顔をしてる水野を放っておき、ゆっくりと歩き出した。慌てて水野は、俺の背中を掴む。
「分かったから。時間……何とかして作るから」
プッ、必死な形相してるし。
「ツンが晴れて警察官になったら、俺をあげるね」
その言葉に凍りついた俺。今度は俺がカチンと固まる番。
「ご褒美あった方が、やる気が出るだろ?」
どっちのヤル気だよ、コイツ――
不意に水野の柔らかい唇を思い出し、思わず赤面しているトコに、
「おーい、ふたりとも。犯人、見つかったぞ!」
どこからか俺たちを呼ぶ、デカ長さんの声。水野が強引に、俺の右手を掴んで走り出す。
「だから、それまでに落としてみせるからね。翼っ!」
「その言葉、受験生に禁句……」
呆れつつ繋がれた右手で、水野の手をぎゅっと握り返した。
俺は水野の手を……好きなヤツの手を、離したくないと強く思ったから――
***
結局、犯人は教頭だったのである。
毎年激減する入学者数に頭を悩ませてる所に、俺が強盗を捕まえて新聞に載り、高校の名前が晒された件で、何かしら事件が起これば同じように新聞に載るのではないかという、浅はかな考えが発端で。
しかし俺が水野やデカ長さんと話をしてる所を何度も目撃し、偶然聞いたらしい教頭。俺がこの計画に感づいたのではと思い、石を投げて脅しをかけ、余計なことを喋らせないように、倉庫に閉じ込めたそうだ。
水野にかかわったせいで、大変な目に遭ってしまった。
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