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I fall in love:高鳴る気持ち
「おっ、ツン発見!!」
放課後さりげなく、教室の前で出待ちをしていた俺。
教室から廊下に出てきた瞬間、強引にツンを羽交い絞めにした。
(今度いつ触れるか分からないから、今のうちに――)
相変わらず不機嫌な顔をしたカッコイイ、ツンを見下しながら、
「三年の教室、張っててビンゴ。しかも二組だと思ったんだよね。刑事の勘、バリバリ働くわ」
ちゃっかり調べたクセに刑事の勘と言って、出来る男をちょっぴりだけアピールしてみたのだけれど。
ツンは何故か呆れた顔して、ため息をつきながら白い目で俺を見る。
――むぅ、滑ったか?
「何か用ですか? 水野さん……」
「またそんな、つれない態度して。会いたかったから、会いに来たんだよ?」
「だからって、何で抱きつくんですか。かなぁり迷惑ですっ!」
思いっきり顔を引きつらせて、迷惑してる感満載のツン。しかし今の俺は、そんなことなんて全然、気にしないもんね。
鼻息荒く今度はツンの首に腕を回し、耳元で囁くように言った。
「俺はツンのことを気に入ってるのにな~。そういう、素直じゃないところとかさ」
「素直に、迷惑してるんですけどっ! しかも嫌いなんですけどっ!」
「嫌い嫌いも好きのうちって言葉、知ってる?」
少しずつ気持ちを伝えつつ、しっかり洗脳作戦。まるで、どっかの宗教みたいだ。
「だからベタベタすんなよ。気持ち悪いなアンタ……ゲイなんじゃないのか?」
よしっ! そのキーワードが出ちゃいましたね。待ってました!
「そうだよ。人種差別すんの?」
俺はサラリと答える。だってツンが好きなんだもん。
まったく揺るがない俺の態度にツンはびっくりして、全力で腕を振りほどき、背中を壁際にくっつけた。まるで化け物でも見るような目で、怯えながら俺を見る。
……ま、しょうがないよね。普通の人間がする態度だよ。
「なっ……なな、な」
「ナニがしたい?」
ツンの態度にめげずに、小首を傾げて可愛らしく聞いているというのに、言葉にならないらしい。
「だっだっ、だ……」
「抱きしめて欲しい?」
俺が優しく訊ねてるのに、これでもかと激しく首を横に振る。
「近づくな。それ以上近づくなよ水野っ!」
ツンは俺に向かって、右手人差し指をビシッと突きつけながら、喚くように言った。
「もうツンってば、照れ屋さんなんだから、分かったよ。これ以上は傍に行かないから、安心して下さい」
「俺に手を出しても、無駄だからな。つぅか未成年だし、女以外に興味はないからな!」
「ツンには手を出さないよ。むしろ出してほしいんですけど、俺としては。その唇で俺の」
俺の願望をちょろっと、口に出しただけなのに――
「わ~! だから変なことを言うなよ! ただでさえ勉強のし過ぎで、頭おかしくなってるトコに、変な薬を注入するなって!」
「ツンの薬を注入して欲しいのは、俺だってのに……まったく。つれないんだから」
頭を抱えて、激しく怯えるツン。
むぅ、お子様にはちょっと刺激が強すぎたかなぁと、ちょっぴり反省しつつ、ツンに背を向けたときに、それは突然起こった。
視線の先にちょうど窓ガラスがあって、ユラリと人影が見えた瞬間、黒い物体がいきなり、こっちに向かってきたのだ。
瞬時に身を翻し、頭を抱えたままのツンをぎゅっと抱きしめ、勢いよく飛び退く。次の瞬間、ガラスの割れる音と一緒に、硬い物がガツンと壁にぶつかる音がした。
派手に飛び散るガラスの破片に、ツンがケガをしていないか、すごくハラハラする。
「おい、大丈夫か? どっか怪我してない?」
急いでツンの体にケガがないか、しっかりと確認した。だけどツンは、さっきのショックと今のショックで、何だか頭が回っていない様子らしい。
ぼんやりしたまま、俺の顔をじっと見る。
――刺激療法発動開始!!
俺は両手を、ツンの体に触るジェスチャーしながら、
「もしもぉし! ツン、頭でも打ったかぁ? 答えないと、どっか触っちゃうよ?」
そう言って、強制的に話をさせる。
「……どこも怪我してねぇよ。大丈夫だから触んな……」
「はいはい、仰せのままに」
ツンがケガをしてなくて、良かった。
安堵を隠すため苦笑いして、両手をバンザイの形をとり、触らないをアピール。
ツンといちゃいちゃしていたいのは、やまやまなれど、そろそろ現場保持のために、刑事の仕事しなきゃね。
よっこらせっと立ち上がり、すっと息を吸う。
「え~っと、生徒諸君。現場保持のため、ご協力をお願いしますね。ここら辺、近づかないように!」
騒ぎを聞きつけた生徒が、野次馬になって集まり始めていたので、大声で牽制した。生徒に注意を促しながら、スマホで仲間に連絡を取りつつ、横目でツンをしっかり観察。
顔色がすっと青ざめたと思ったら、フラフラしながら、どこかに行こうとしている。
俺は慌てて通話を切り、ツンの後方に回って、その不安定な体を抱き留めた。自分が狙われたと分かったら、誰だってこういう風になる。
「気分、悪くなった? ビックリしたもんね。保健室に行く?」
覗きこんだ俺の顔を見て、イヤそうに眉根を寄せるツン。相変わらずな態度をしてくれて、どうもありがとうと口から出そうになった。
「保健室ならアンタが行けよ。手、切れてるぜ」
抱き留めた手を外し、俺の左手を突き出して、怪我をしている箇所を確認させる。その傷口は派手に血が流れ出て、ワイシャツの袖口を染めていた。
「ありゃりゃ」
「人のことより、自分を大事にしろよな。じゃないと、周りが迷惑するんだぜ」
ツンが睨みながら、強い口調で俺を叱る。そして素っ気なく、ケガした手を離したけど、俺はその手を大事に、右手で握り締めた。
「何か、ツンに大切にされてる感が満載……」
「あのなぁ……。勘違いしてんじゃねぇよ、まったく。アンタに何かあったらこの現場が、滅茶苦茶にされるだろうが! しかも誰がその無駄な長身を引きずって、保健室に連れて行かなきゃならないと思ってるんだ」
ものすごく迷惑そうな表情に、心の底から安堵した。良かった……いつも通りのツンになったね。
「勿論、ツンが運んでくれるんだよねっ? 優しく保健室まで連行されるのか。俺……」
このシチュエーションは、俺にとって夢かもしれない。これだけで、ご飯3膳はイケる!
危ない妄想の世界に行ってる俺を、いつのものように冷たい目で見るツン。しかしその妄想もあっという間に、応援部隊によって遮られてしまった。非常に残念である。
現場にいた俺たちは、簡単な事情聴取され解放された。
その後、俺の怪我を治療するために、保健室へ向かったのである。
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