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I fall in love:事件発生で告げる想い
***
俺はいつもより早起きして、ツンの通う高校の校門前にいた。
勢いで告白してしまったとはいえ、大人の俺があんな事を言ったのは、ツンにとって衝撃的な出来事だと思う。トラウマになる前に、しっかり謝ろうと考え、ちゃっかり待ち伏せ中……
どうやって謝ろうかなぁとため息をついた時、その姿を発見した。今日も俺の目には、とっても格好良く見える翼。
「おはよう、ツン!」
いつも通り、元気ハツラツで挨拶してみたのに、めちゃくちゃローテンションみたいで反応なく――
だけどめげるな俺、いつも通り笑顔・笑顔っと。
「相変わらず、ご機嫌麗しくないみたいだね。朝は低血圧なのかい?」
ツンと一緒に並びながら、校門をくぐった。
一生懸命ニコニコして俺が問いかけても、ツンは実にダルそうにしたまま、華麗にスルーしてくれる。昨日の今日だしこんな態度されて、当然なんだよね。
一緒に並んでいるのがどうにも辛くなり、俺は歩くのを止めた。
ツンはそのまま、生徒玄関に向かって、スタスタ歩いて行く。
冷たい対応をする背中に、なけなしの勇気を振り絞って、大きな声をかけてみる。
「ツン、昨日はごめん。君の気持ちを分かっていながら、自分の気持ちを押しつけるみたいな形になってしまって。迷惑、極まりないよな……」
しょんぼりしながら言うと、俺の声に振り返り、あからさまに面倒くさそうな顔をしながら、強引に右腕を引っ張って、校舎裏へと連行した。
その態度に、俺がおどおどしてるとツンは、頭をバリバリ掻きむしってから、
「俺も、昨日は悪かったよ。断るにしたって、あの言い方は最悪だと思う」
突然謝ってきたツンに、びっくりするしかない。謝る必要なんて、全然ないのに。
「ツン……」
「だけどあれだ。恋愛関係みたいな付き合いは無理だけど、友達っちゅ~か、人生の先輩になってくれるなら、付き合うことが出来る。と思う」
ツンの優しさ溢れる台詞にいたたまれなくて、思わず俯いてしまった。
せっかく君が、俺とのことを考えて出してくれた答えだったけど、現実はやっぱり残酷……だね。
「昨日、ツンが女の子と楽しそうに喋ってるのを見て、すっごく妬けたんだ。俺だって、そういう風に話がしたいって……結果、告って玉砕。当たり前、だよな……」
「水野……」
気持ちは、言葉にしなきゃ伝わらない。きっとこれが君に言う、最後の俺の気持ち――
俯いた頭をしっかりと上げ、両手の拳にぎゅっと力を込めて、ツンの顔をしっかり見た。
「ツンが、山上先輩に似てるから好きになったんじゃない。刃物を持った強盗に怯まず、潔く倒したトコや今の……俺のことを考えて折衷案出してくれた、優しいトコが好きなんだ。だから俺は……君のことを友達として付き合うことは、無理だと思う。きっと」
成年男子が頬を紅潮させ、男子高校生に向かって言う、台詞じゃないのは分かってる。でも俺は、君が好きなんだ!
ツンは複雑そうな表情をし、俺の顔をじっと見てから、
「俺も昨日――」
仕方ない口調で話し始めた瞬間に、タイミング悪くチャイムが鳴った。その音に、お互いの顔を見やる。
「やべっ、遅刻する!」
「ごめん、俺が引き留めたから。遅刻になったら、俺のせいにしろよ。昨日の事情聴取とか、何とか言って」
チャイムを合図に2人で学校に向かうべく、猛ダッシュした。
「そんな無理矢理な理由なら、遅刻してやる。水野にこれ以上、借りは作りたくないからな~。昨日も、助けてもらったんだから」
爽やかな笑顔でツンが言った。俺に向けられた、その笑顔の眩しかったこと。俺はそれだけで……
天にも昇るほど、本当に幸せで――
泣かないように必死に笑いながら、首を横に振って、ツンの右腕をぐいっと掴んだ。
「ツン、遅いっ!」
足をもつれさせながら、俺について来るツンを、グイグイ引っ張りながら、生徒玄関をくぐった。
「ありがと、な。水野って足、すげぇ速いんだ……」
ゼーゼーしながら言うツンに、にっこりと微笑んでみせる。
「これのお蔭で、刑事になったようなものだからね」
この特技がなきゃ、山上先輩との出逢いがなかっただろうな。
「何か、意外かも……」
そう言いながら下駄箱をカタッと開けたら、音もなく二つ折りのカードが足元に落ちてきた。
首を捻って拾おうとしたツンを、慌ててストップさせる。
「待って! イヤな予感がする」
俺はポケットから白い手袋と、ジッパーの付いた透明の袋を取り出し、カードを開いて読み上げる。
「『話したい事があるので、放課後体育館倉庫に来て下さい。木下 春菜』 木下 春菜って誰?」
女の子の名前……ツンへの呼び出しって、まるで告白のシチュエーションじゃないか。
不機嫌丸出し状態で、乱暴にカードを透明の袋に入れた。そんな俺の態度に、なぜだかおどおどするツン。
「……昨日、廊下で喋った女子。特に、仲が良いってワケではないんだけど」
なぜだか俺の顔を、チラチラ見ながら言う。
昨日仲が良いところ、しっかりと拝見しましたけどね。下手な言い訳なんて聞きたくないな。
「体育館倉庫って、体育館の横にあった物置?」
女子のことは置いておいて、事件の匂いがぷんぷんするんだから、仕事モードに変換しなきゃ。俺は刑事、俺は刑事、俺はめっちゃ刑事なのっ!
気分を変えるため、ゴホンと咳払いしてツンを見た。
「ああ。古くなったけど、まだ使えそうな用具や学祭で使う物なんかを、保管してるトコ。滅多に人は出入りしない」
難しそうな顔をして、何かを考えこむ。その場所に何か、気になるようなものでもあるのかな?
「放課後までまだ時間あるから、ちょっと行って調べてくる」
カードを胸ポケットにしまって、体育館倉庫に向かうべく、ズンズン歩き出した。
「待てよ、俺も行く。水野一人じゃ、現地に辿り着けないだろう?」
ぐいっと、俺の背広の裾を掴んだツン。
振り返ると真剣な顔がすぐ傍にあって、無性にドキドキが止まらない。
「大丈夫だって。校内地図、頭に叩き込んでるから。ツンはちゃんと授業に出なきゃ、受験生なんだし」
「言ってるそばから、逆方向だっちゅ~の。こっちだから」
プッと吹き出しながら、行き先を指差す。俺はいろんな意味で、わたわたしてしまった。
自分のやらかした失敗もそうだけど、ツンの笑顔が眩しくて、更に心拍数がぐぐっと上昇。
ホントに罪作りな男だよ、実際……
「何もないトコで3回もコケれる男の、補助についててやらないとなぁ」
「あれは借りたスリッパが、引っかかってだな。今日はしっかり、上履き持参してるから大丈夫だって」
だってツンに、抱きしめられたかったのだ。こればっかりは、しょうがないだろ。
「ちまちま、言い訳するなよな。近道こっちだから、黙ってついて来いよ」
ブーたれてる俺をしっかり無視して、肩を竦めて前を歩いて行く。
これじゃあ、どっちが大人か分かんないよね。
渋々ツンの後ろについて歩いてる最中、誰かの視線を感じ、ピタリと立ち止った。360度ぐるっと周囲を見渡してみる。
(おかしいな。人の気配はないか……)
「水野、置いてくぞ」
「ごめん。今、行くから」
もう一度だけ後方確認してから、ツンに追いついて歩き出した。俺の刑事の勘、やっぱアテにならないや。
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