頭を掻きながら、ゆっくりとロッカーから体を出した。何が起こったんだと怪訝な顔した翼も、中から出てくる。 　 　呆然としている俺たちの元へ、先ほど応援要請した警察官たちが、慌てた様子でなだれ込んできた。倉庫内に響くメロディに、一同唖然とする。 「水野……これはどういう状況なのか、説明しろよ？　漏れなくな」 　デカ長が笑顔を引きつらせながら、俺たちを見る。その目の痛いことこの上ない。 　そんな視線を華麗にスルーして、苦笑いしながら、ツンの耳元で囁くように訊ねてみた。 「漏れなく説明をしなきゃならないということは、さっきのアレとかコレも、 詳しくねっこり、言わなきゃならないよね？」 　随分と、意地悪する大人だと笑って下さい。だって翼が可愛くて、仕方がないんです。 「お前、何言ってやがる。ダメに決まってんだろ……」 「だって解体してれば、こんなことにはならなかったんだよ。ツンが押し倒して、あんなチュウするからさぁ」 　わざとらしく、翼の顔を意味深に覗き込んでみた。途端に頬か真っ赤になる。 （――ああ、写メりたいなぁ、この表情） 「あっ、あれはだな、しょうがなかったんだっ！　危険回避するための、応急処置みたいなっ！」 「応急処置のわりには、随分念入りにしてくれたよね。どこで、あんなことを教わったのかな？」 　普通の男子高校生が、知ってていい技じゃないよ。どこのお姉さまに、伝授されたのやら。 「企業秘密だよ、教えてやるもんかバカ！　それよりもさっき言ってた、お前の台詞の方が、気になるんだけど。後者ってなんだよ？」 　その言葉に、顔を引きつらせる。むむっ！　かなりヤバい状況です。 「あ～……えっとね」 「コラッ、お前ら、何をぐちゃぐちゃ喋ってるんだ。水野、何でお前は解体しなかったんだ？」 　しびれを切らした、デカ長が怒鳴る。今回は何て、グットタイミングなんだ。 「俺は解体しようとしたんですが、ツンに止められたんですよ。強引に押し倒されて」 「水野っ!?」 　慌てた翼が、俺の袖をグイグイ引っ張った。 「ほらツンにしたら、非日常的なことが起こって、パニックになったみたいで。爆弾に触ったら俺が死ぬと思ったらしく、そのまま強引にあのロッカーに、軟禁されたんです。お前は、生きなきゃならないんだからって」 　嬉しそうに告げてから、翼の顔を見る。その視線を受けて、ちょっと照れながら、コクリと頷いた。 「そうか。少年は水野を、何としても助けたかったんだな。それなら、しょうがないか……」 　デカ長は腕組みし、ため息をつくと、納得したような表情で翼を見た。すると何故かあからさまに、困った顔をする。 　何か、イヤな予感―― 「いや～。助けたい以前に、水野が爆弾触ったら、一緒に死んでしまいそうで、マジ怖かったんです。今までの行動見てたら、超不安で」 　おいおいおい……突然、何を言い出すんだよ翼くんっ。 　焦る俺に後方で仕事をしている鑑識のゲンさんが、ゲラゲラと声をたてて大笑いした。 　うっわ～最悪。俺、すごく格好悪い。 「ちょっゲンさん、笑い過ぎじゃないですか。酷いなぁ……あっ、そうそう、これの指紋照合も、急ぎで頼みます。犯人の手かがりに、絶対なりますから」 　 　胸ポケットから例のカードを取り出して、ゲンさんに渡す。涙を流しながら笑っている姿に、微妙な気持ちになった。 「いつも上手いことを最後の一押しに使うねぇ。それ言われちゃうと、どうしてもやらなきゃいけない気になるもんな。ミズノン」 「あはは、すみません。いつも無理言って」 　俺は苦笑いをして、頭を下げた。なのに…… 「そこの高校生にも、何か無理なお願いしたんだろ？　おねだり上手だから。なっ、高校生？」 　余計なひと言をポロッと言ってくれたゲンさん。 　ヤバいと思いつつ後ろを振り返ると、翼は顔を引きつらせながら、こちらにズンズン歩いて来た。 「水野さん、ちょこっとツラ、貸してもらえませんかね？　外までご同行、お願いします」 　俺が返事をする前に襟首を鷲掴みして、引きずりながら外に連れ出す。 「わ～、ゴタが始まるのかな？　ミズノン、頑張ってね～」←ゴタとは揉め事 　ゲンさんが俺に向かって、右手を左右に振る。 「日頃の行いの悪さを、思い知ればいいんだ。潰していいぞ、少年」 　デカ長が右手親指を立てて、何故か翼を応援する。俺の扱いって一体…… 　ズズーンと気持ちが沈みこむ中、強引に外に連れ出した。 「わわっ！　……ツン、痛いことするの？」 「水野の返答次第、だな」 　翼がほくそ笑みを浮かべ、俺の顔を見る。その笑みが何ともいえず、顔をうんと引きつらせるしかない。 　いつもとは、逆のパターンである。