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I fall in love:落としてみせる!⑤
***
無言で監察室まで一緒に行く道すがら、身の置き場がなくて、どうしていいか分からなかった。自ら扉を開けて俺を中に促す関さんの顔が、相変わらずめっちゃ怖い。
おどおどしながら入ると扉を閉めた途端、目の前に突きつけられた写真に息を飲んだ。それは明らかに、隠し撮りしましたというアングルのものだったけど、センターに大きく翼の姿があり、見ているだけでドキドキが止まらない――
「コイツは、誰だ?」
「えっと……矢野 翼、私立高に通う三年生です……」
カッコイイ翼の写真をちらつかせ、渋い顔して問いただされても全然怖くなかった。だってすっごくいい感じに撮られていて、喉から手が出るほど欲しいモノだったから。
「山上の次が未成年の男子高校生って、ちょっといき過ぎじゃないのか?」
「あの……その」
「君の上司から、しっかり報告を受けているんだ。今更隠しても、無駄だぞ」
軽蔑する眼差しが体に突き刺さってきて、どうにも居たたまれなくなる。デカ長、余計なことを言わなくていいのに。
「優秀な君がくだらないことで、身を滅ぼす姿を見たくないんだよ」
「……翼との恋愛は、くだらないことじゃないです。俺は真剣に――」
「男同士の恋愛に、明るい未来はあるのか? 何故いばらの道に、まっすぐ突き進むんだ水野くん」
「関さん……?」
悲鳴に似た怒号で言う彼に、首を傾げた。いつも冷静沈着で解剖するように、相手を捌いていく関さん。しかもこうやってプライベートに首を突っ込むその姿は、いつもの彼らしくない。
「山上はどう思うかは分からないが、俺個人として君には普通の恋愛をして、幸せになって欲しいと思っているんだ」
「はあ……」
「なのに、君ときたら――」
忌々しそうに言って突然、俺の首に左腕を回してきたと思ったら、そのまま壁に向かって、除夜の鐘よろしく打ちつけた。
一度ならず、二度三度――
「あだだっ! 関さん、ちょっ、たんまっ!」
さすが山上先輩の相棒。突飛な行動は類友か!?
「男子高校生に手を出すなんて、そんなロリコン変態野郎だったとは……俺は失望したんだよ!」
四度目のゴンッ!
頭も痛いけどロリコン変態野郎の言葉に、心も深く傷ついた。尊敬している関さんに、言われたから余計……
放り投げる様に俺の体を離し、両腕を組んで見下される。相変わらず視線が冷たい――
俺は奥歯を噛みしめ、しゃがみこんだまま頭を撫でさすった。
「不毛な恋愛は応援しない。仕事面ではバックアップしてやるが、プライベートに関して、何かあっても助けてやらないから」
氷の様な冷たい眼差しにおののきつつ、心の中にある秘めた情熱を使い勇気を奮い立たせ、思いきって言ってみる。
「分かりました。なるべく問題起こさないよう、隠密に行動します。そこで、お願いがあるんですが……」
「無理な頼みなら、絶対に聞かないぞ」
「難しいお願いじゃないですよ。ただその手にしてる写真、俺にくれたらいいだけですから」
小首を可愛らしく傾げると、関さんは眼鏡の奥の瞳をキッとつり上げ、またしても俺の首に腕を回して立ち上がらせて、壁にゴンゴン打ちつけた。
「水野くん、君の頭の中は、どこまで腐っているんだっ!」
「あだだっ! 関さん、頭が崩壊するって」
「中が腐ってるんだ。外も壊して、リセットすればいいだろう?」
あり得ないようなオソロシイことを言い放ち、なおも頭を打ち付ける。
写真欲しいなんて、言わなきゃよかった……
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