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I fall in love:落としてみせる!⑦

「いえ。どうぞお掛けになって下さい」 「失礼しますっ」  同時に椅子に腰かける。向かい側には、翼父と翼母。俺の横には、翼が不機嫌な様子で座った。  雰囲気は、かなぁり最悪模様である。帰りたい感満載なんだけど、そうも言ってられない。    難しい顔をすると隣に座っている翼が俺の左手に、自分の右手をそっと重ねてきた。 『翼くんを俺にくださいっ!』  途端に、頭の中で流れてきた台詞。ダメだ、顔が緩んでしまいそうになる。 「君がうちの息子を、警察に勧誘したそうだね?」 「はいっ、そうなんですっ……って、失礼しました」  唐突に話しかけられ、声が裏返ってしまった。刑事採用試験より、緊張してるよ俺―― 「うちの息子のどこに、魅力を感じたのかね?」  それは、キスが上手いところです! ……なんて、言えるワケないよな。しかしながらこの質問を想定していたので、すらすらと答えられるぞ。  軽く咳払いをし、思いきって口火を切る。 「警察官でもたじろぐ様な、あの場面。刃物を持った強盗に出くわしてるのにまったく怯まず、鮮やかな技で倒してしまった勇気ある行動が、凄いって思ったんです。俺でも、あんな風には上手く捌けないです」 「息子は県の大会で優勝して、全国に行ってるからね。当然だろ」  当たり前だと言わんばかりに、両腕を組んで俺を見る翼父。 (あの……本人からの申告では、あんま強くなかったと、お伺いしているのですが?)  俺は横目でチラッと翼の顔を見ると、しまったと書いた顔をしていた。  おいおい、嘘つきは君の特権だからね、しょうがないけれど。  顔を一瞬引きつらせつつ、すぐに笑顔を作って、必死に仕切り直しをする。 「えっと他にもこの間、翼くんと学校の倉庫に閉じ込められたときにですね、最後まで諦めずに、自分の出来ることを素早く見つけて、最善を尽くす姿が素敵でして……」  俺が諦めかけたというのに、ドアに体当たりした翼。俺の心に響く重い言葉を告げて、情熱的なチュウをしてくれた翼―― 「あの姿を見たら、どうしても欲しくなってしまったんですっ!!」  そう言って翼を見ると顔を引きつらせ、口パクで『バカ』と言った。その様子に正面へ顔を戻すと、ご両親が口をポカンと開けている。  心の中でうわぁと頭を抱えながら、激しくのけ反った俺。仕切り直したつもりが、あらぬ方向の話をしてしまった。  ――どうするよ、この状況をどう乗り切れと!? 「そっその、あのですね……警察にですね、すっごく欲しいなって思ったんですよ。翼くんの勇気と行動力はきっと犯罪撲滅に、激しく役に立つって思いまして、ですね――」  欲しいという言葉を、どうやって誤魔化そうか必死になる。  ――再び、どうする俺。翼くんをください的な発言、ご両親の前で堂々としちゃったよ。  デカ長ってば俺がミスするの読んでいたから、忠告してくれたんだ。でも、やっちまったよ~……この後、どうすればいいやら。

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