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I fall in love:落としてみせる!⑩

***   自宅に着くと言われた通り、ドアノブに美味しそうなミカンが、大きな袋に入った状態でかけられていた。それを手に取り、鍵を開けて家の中に入る。 「お邪魔します……」  呟くように言って、おずおずと俺の家に入る翼。意識しないようにしていたけど、やっぱ緊張するよね。だって、ふたりきりの空間なんだから―― 「そこに座ってて。今、押入れから参考書を出すから」  ドキドキを悟られぬ様、早口で言って、押入れに体を入れた。  頭の中に溢れ出てくる妄想を、右から左に流して追いやり、参考書の入ったダンボールに手を伸ばす。よいしょと引っ張り出したら、すぐ傍に翼が立っていた。 「水野……」  俺の頬に両手を伸ばし、ぐいっと引き寄せてキスをしてくれる。妄想が現実化して喜ぶ俺を他所に、すぐに離される唇。  難しい顔をした翼が、俺の左腕を強引に掴んで、ベットに連れて行く。 (もしかしてこのまま……わくわく!)  布団をめくり、俺の体を放り投げるように横たえると、乱暴に布団をかぶせてきた。 「あの? 翼――?」  何故、俺に布団をかぶせる? 「今日来るのに、無理しただろ水野?」 「は?」 「朝から思ってたんだよ。顔色が悪いなって……実際、唇も冷たいし」  そう言って俺の頭を、そっと優しく撫でる。 「ただでさえ時間作らせて負担かけてんのにさ、今回のこともかなり、ストレスになったんじゃないのか?」 「大丈夫だよ。翼のお願いなら、どんなことだって聞いてあげる」  頭を撫でている手を掴み、ぎゅっと握りしめた。  ……まったく君ってコは、すっごく優しいんだから―― 「俺は水野の、重荷になりたくないんだ。早く大人になって、お前を守れるくらい強くなりたい」  掴んでいる手を引っ張って辛そうに言う翼の体を、強く引き寄せた。その体を息が止まるくらい、抱きしめてあげる。 「君は、俺の重荷になんてならないから。むしろ俺の方が、重荷になる可能性が大だと思うよ」    クスリと笑ったら、苦笑いをした翼が俺の顔を見た。 「お前は重荷になんねぇよ。だって俺の……」  言いながら目を閉じて、しっかり俺の唇にキスした翼。  こ、このキスは体育館横の物置でした、あの幻のキスではありませんかっ!  嬉しくて翼の首に腕を伸ばしかけた矢先、額に掌を当てられ、強引にはがされた。 「よしっ! やる気が出たぞ。頑張らないとな」  元気よく言って立ち上がり、俺の出したダンボールから、参考書類を取り出し始めた。  そっちのやる気より、こっちのヤル気は、どうすればいいですかね? 君のキスで、かなぁりヤル気が満々なんですけど…… 「あの、翼……」 「何だよ、うっさいなぁ。勉強に勤しむ受験生に向かって、変なことを言うなよ。黙って寝とけバカ水野」  先に釘を刺されてしまい、二の句が告げなくなった俺。  悶々としながら翼の後姿を見ているうちに、布団の温かさも手伝って、いつの間にか眠りの世界に導かれてしまったのであった。

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