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Sweet's Beast Whiteday③
「おいマサ、メシ出来たから出てこい」
布団の外から翼の声が聞こえたので、モゾモゾと這い出てテーブルの前に正座した。出来立てのおじやが目の前で、美味しそうな匂いを放っている。
「熱そうだね……」
「ああ、だから気をつけて食えよ」
向かい側にあぐらをかいた翼が目を細めて、優しい表情で俺をじっと見た。その目を見つめ返しながら思い切って、して欲しいことを告げてみる。
――だって俺は病人なんだし。
「あの、ね翼。フーフーして、食べさせて欲しい、です……」
「いい大人が、何を言ってんだか。どこまで、手をかけさせるつもりなんだよ」
「だよね、ごめんごめん。調子に乗りすぎちゃった」
慌てて右手にレンゲを持つと、その手から奪うように引ったくった翼。
「しょうがないヤツ。ほら、隣に座れよ。食べさせてやるからさ」
「翼……ありがと」
喜び勇んで、いそいそと隣にちょこんと座った。そんな俺の様子を見て、苦笑いをしながらフーフーし、一口ずつ食べさせてくれる。
「ホントに初めて作ったの? すっごく美味しい」
モグモグしながら感動してると、ちょっとだけ照れながら、
「ま、これがバレンタインのお返しということで、ヨロシクお願いします。お粗末様」
ペコリと頭を下げる。
(バレンタインのお返しって、あれ?)
「今日ってもしかして、ホワイトデー……?」
だから今日風邪をひくなんてタイミングが悪いと、関さんが憐れんでいたんだ。
ガーン。俺ってばお返し、何も用意していないじゃないか。
「どうした? 赤くなったり青くなったり、忙しいヤツだな」
「ホント、見かけによらず翼ってば、意外とマメな男だよねぇ」
バレンタインのときも、正直ビックリした。まさかチョコを貰えるなんて、思ってもいなかったから。
「見かけによらず、お前が大雑把だからだろ。俺は勝手に、ホワイトデーの徴収するから、気にすんな」
その台詞に小首を傾げると、傍らに置いてあったミカン味の水が入ったペットボトルを口に含み、俺の後頭部に手を回して、そっと唇を合わせた。
甘い水が口の中に流れ終わっても唇が離されることはなく、むしろ強く強く貪るような激しいキスになっていく。
「ん……ダメ、つ、翼……」
「どうした? 辛くなっちまったか? ごめん……」
「そうじゃないんだ。むしろ、俺的には嬉しいんだけど」
ああ、申し訳なくて、すっごく言いにくい。
「何だよ?」
「えっと、俺の風邪……インフルエンザA型なんだ」
「おいおい、そんなオチありかよ。まったく……」
呆れ返った翼が、俺の頭をチョップした。
「うう……ホントごめんね。翼が寝込んだら、ちゃんとお見舞いに行くから」
「当たり前だ! きっと、重くなるに違いないからな。マサからの感染だから間違いなく、変な菌が混ざってるだろ?」
何だよ、恋人をバイ菌扱いするなんて。ちょっと酷いんじゃないか!?
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