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ラストファイル4:夢のあとさき6

「お前の表現は、抽象的過ぎるって関さんに、よく怒られるんだけどさ。何ていうか、水野さんほわほわしてるから、しっかり者の翼くんなら、大丈夫だなって見えるんだ」 「水野がほわほわ? なよなよの間違いじゃ……」 「俺ね、水野さんと山上さんが一緒にいるところを見てるから、分かるんだよね。比較して本当に悪いんだけど、山上さんの危うさに水野さんが引っ張られてしまうんじゃないかって、思える部分があったんだ」  コンビニにいる時間なんて、そんなに長いわけじゃない。なのに伊東さんは店にやって来るマサと山上を見て、何かを感じ取っていたんだ。 「山上の危うさって、どんな感じなんですか?」 「あー、何て言ったらいいかな。ちょっと難しいかも。水野さんを見つめる山上さんの目が、危うい感じっていうか。翼くんも山上さんに似てるトコがあるんだけど、やっぱりちょっと違うんだよね。安心感――そんな風に見えるんだよ」  あの時こんなやり取りを、伊東さんとしたのだけれど。 「マサと俺が、いいコンビだって言ってくれたんだ」 「それのどこが、変なことになるのさ?」 「あえて似合いのカップルとは言わず、コンビと言った点について考えてみろよ。お前が普段、変なことばかりするから、こういう風に言われるんだぞ。ねぇ伊東さん?」  俺が誤魔化して言うと漆黒の髪を揺らして、クスクス笑い出す。 「やっぱり、翼くんはすごいや。そのしっかりしたところ、見習わないとなぁ」  ペロッと舌を出して、肩をすくめた瞬間―― 「しっかりすべきところは、きちんと仕事をしなければならないことじゃないか? 客が来てるのに、声の一つもかけないなんて店員失格だぞ」  背後の声に振り返ると、ちょっとムッとした関さんが、入り口前で腕を組んで佇んでいた。 「わわっ関さん! いらっしゃいませっ!」  慌てて立ち上がると関さんに向かって、丁寧にお辞儀をした伊東さん。何か恋人っぽくないように見えるのは、俺の気のせいなんだろうか? 「関さんのアドバイスのお陰で、一泡吹かせることが出来ました。有り難うございます」 「……ああ、そう」  伊東さんに倣って、俺も頭を下げた。だけど、どこか素っ気ない態度に首を傾げるしかない。そこにマサが袖を引っ張ってきた。 「んもぅ翼ってば、伊東くんとイチャイチャしてたから、関さんは怒ってるんだってば!」  コソッと喋るマサの言葉に、顔を引きつらせた。普通に会話してただけだぞ、あれでもダメなのか。 「俺は別に――」 「全部、会話が筒抜けだ水野くん。躾がなっていないぞ」 「えっとゴメンなさい、関さん!」  謝った感じがしない言葉を棒読みで口走ると、何故か俺の頭を強く殴った。 「いてっ!」 「ちょっ水野さん、暴力はダメですって! 関さんってば、態度悪すぎますよ。そんな顔してると、振りますからね!」  マサをたしなめ、関さんを叱った伊東さんってば、何かスゴイ人だな。あの関さんが押し黙っちゃったよ。恋人の言葉の力は、本当に絶大だ…… 「ホントゴメンね。翼くん大丈夫?」 「あ、はい。それほどでも――」 「そうそう、大丈夫! 翼は俺に鍛えられてるから! さぁ早くお弁当選んで、さっさと帰ろうね!」  それほどでもないと答えかけた俺の腕を引っ張り、強引に弁当売り場に連行するマサ。これ以上の混乱を、何とかして避けようとしているのが、手に取るように分かってしまう。  弁当を選びつつ、背後で会話を交わすふたりに、思わず聞き耳を立てた。 「珍しいね、お昼前に来るなんて。何かあったの?」 「いや、水野くんたちがコンビニに向かう姿が、たまたま窓から見えたものだから、来てみただけだ」 「なぁんだ、俺に逢いに来てくれたんじゃなかったんだ。ざーんねん」 「それは、その……」 「理由は何であれ、関さんに逢えて嬉しい。ありがと」  ――あの関さんが思いっきり、翻弄されまくってる……もしかしたらこの中で一番最強なのは、伊東さんなのかもしれない。 「伊東くんごめんね、お弁当決まったよ」  空気の読めないマサが、ふたりの間を邪魔すべく話しかけた。もう少しくらい、話をさせてやればいいのに。 「あ、はーい。有り難うございます! 温めますよね?」  ニコニコしながら応対する伊東さんに、マサも満面の笑みを返した。俺は無言でカウンターに弁当を置き、関さんに向き直る。 「すみません、お借りしたコレ、お返しします」  盗撮カメラ付きの万年筆を胸ポケットから引き抜き、関さんに渡した。

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