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ラストファイル4:夢のあとさき7
「いい絵が撮れたか?」
「はい、水野が思いっきりドジをしてくれたお陰で、収穫がありました」
俺の言葉を聞き、ゲッと大きな声を出す。
「それ……関さんに渡しちゃうの?」
うひーと言いながら顔色を青ざめるマサが、俺の袖を引っ張った。
「勿論、借りた物を返さなきゃな。しかも証拠になるモノが、バッチリ映ってるんだ。厳重に保管してもらわないと」
「アレを厳重に保管――今すぐ抹消して欲しいのに」
「ほぅ! それは水野くんが体を張って、証拠を取ってきてくれたんだろう? すごいことじゃないか」
「へぇ水野さん、おとり捜査したんですか? 格好いいな!」
次々述べられる賛辞に、更に困惑の表情を浮かべるマサ。
「山上警視正の膝の上に上手いこと滑り込んだ様は、アクションスターのスタントマンも、真っ青になるレベルでした」
「……つ、翼!?」
「なるほど。それは随分と、サービス精神を発揮した行為だな。おとり捜査というより、ちゃっかり捜査と表現すべきか」
含み笑いをしながらマサを見る関さんの顔は、いつも見る表情になっていて、その様子にこっそりため息をついた。
(――伊東さんと喋ってたトコを見ただけで、あれだけ不機嫌になっていたから、もうダメかと思ったぜ……)
「ちゃっかり捜査でも、しっかりと仕事してきたんです! その……関さんが機転を利かせて、翼にアレコレ教えてくれたお陰で、上手くいきました。有り難うございます!」
イヤイヤといった感じでお礼を言うマサの隣で、俺も伝えるべきことがあるなと口を開いた。
「えっと、その映像の中に俺の舌打ちや貧乏ゆすりのせいで、見ていてちょっと不快に感じる場面があるんです。証拠の映像なのに、すみませんでした」
頭をポリポリ掻きながら謝ると、
「うそっ……。そんな感じ、全然しなかったのに」
空気が読めなくて、超絶鈍いマサが声を上げる。
「まったく――山上警視正の膝枕で幸せそうにしてる水野くんを、黙って見ているだけでも、偉いと思うがな」
「ホント偉いよ! 俺ならこのレジ持ち上げて、ソイツに投げつけちゃう」
「いや、でもスミマセン。映像が見難くなってるのは事実なので、あまり褒めないでください……」
偉い偉いと褒められ、どうしていいか分からなくなる。実際は自分の感情を隠すのに必死で、貧乏ゆすりをしたりマサのドジっぷりに、こっそりと舌打ちしたり、頭の中を事件のことでいっぱいにしたりと大変だった。
大変な中で、考えさせられたこと。
ただ表立って守るだけじゃない――冷静になって状況を把握し、マサを守る手段を考える。こういう守り方があることに、気が付かせてくれた点については感謝しないとな。
そう思いながら隣にいるマサを横目で見てみたら、何だか嬉しそうな顔をしている姿があった。
やっぱ前言撤回! 誰かつけ上がってるコイツを、殴ってはくれないだろうか。
「さぁてお弁当も買ったし、ふたりの邪魔をしないように、さっさと帰ろう翼!」
さっきまでの困惑はどこにいったのか、元気ハツラツになったマサは俺の腕を引っ張り、店を出ようと足早に歩く。
「あはは、お気遣いありがとう、水野さん」
「水野くんのお守り、頑張れよ」
背後からかかる声援らしき声に、苦笑いを浮かべつつ、ちょっとだけテレながら店を後にした。
「翼が嫉妬していたなんて、全然気がつかなかったよ……。ごめんね」
店を出て開口一番に告げられた言葉に、しょうがないだろと呟く。
「こんなんでも一応、俺の恋人なんだからな。マサの性格を大体把握しているとはいえ、ドジの種類までは予想できないし。まぁ、いろいろ考えさせられた」
マサが手にしていたビニール袋を奪って、空いたほうの手をぎゅっと握りながら、ゆっくりと歩き出した。暖かい日差しを浴びて、心の中までポカポカしてくる。
気持ちよさそうに青空を眺めながら隣を歩く翼を、不思議に思いながら、じっと見つめてしまった。
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