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ラストファイル4:夢のあとさき8
「いろいろ考えさせられたって、何かあったっけ?」
「んー、何ていうか俺はお前を守るために、警察官になったんだけどさ。こうしていろんなことを経験して、守るための手段や方法を学ばせてもらってるなぁと、しみじみ思ったワケなんだ」
掴んでる左手を引き寄せ、薬指に嵌められているリングに、そっと口づけをした翼。
「っ……くすぐったい。いきなり何するんだよ?」
唇を尖らせて翼の顔を仰ぎ見ると、甘さを含んだ熱い眼差しで、俺を見てくれる。すべてを包み込んでくれる、大好きな翼の瞳――その瞳に魅せられて、体の中にある芯に熱を持つ。君から貰える好きって気持ちが、俺を強くしてくれるんだよ。
「口ぶりの割には、嬉しそうな顔しやがって。ドジったことも正直、反省してる気がしねぇし。お仕置き決定だなお前」
「何で!? 俺、謝ったでしょ」
「あんな棒読みで言われたら、バレバレなんだよ。まったく――宮様、お戯れが過ぎたようなので、お仕置きさせていただきます」
「どうしてそこで、宮様を出すかな。俺が反論できなくなるの分かって、ワザと言ったでしょ!」
してやったりな顔をした翼の手を、ぎゅっと握りしめた。
何だかんだ言っても、翼は優しい――君が俺を守ってくれるように、俺も君を守るよ。
……そのためには、ドジを減らしていくしかないんだけど。実はこれこそが、厄介だったりするんだよね。
――翼の隣に、ずっと並んでいたい――
だから愛する君のために、努力を惜しまない所存で頑張っていく。きっとふたりなら、どんな困難でも乗り越えられるって思うから――
これから未来に向かって並んで歩んでいくように、仲良く自宅に帰る。
自宅前、翼が耳元で言った言葉に、頬を緩ませた。素直じゃない君の言葉は、相変わらずなんだから。
「バカバカ言うなよな、そんな翼のことが好きなんだ」
俺の言葉に照れて、わざと頭を乱暴に撫でる。実はその手も好きなんだよ。
自宅の鍵を開け中に入った瞬間、抱き寄せてキスをしてきた翼。大きな胸の中にぎゅっと抱きしめられ、嬉しさが自然とこみ上げてくる。
喜びながら、甘いキスを受けてる俺の耳に、ガサッと異音が聞こえてきた。
(――翼、君ってコは……)
俺は眉間にシワを寄せ、両手で胸をぐいっと押し返し、頭をぐーで殴ってやる。
「こらっ! 食べ物を粗末にしちゃダメ! 床に放り出すなんて、言語道断だよ!」
「いってぇな。俺としては、消毒を早くしてやろうと思って」
「それならちゃんと、テーブルに置いてから始めればいいことでしょ!」
「マサのキレどころが、ホント分かんねぇ。しかもこれから始まる甘い展開を期待してる読者さんを、華麗に裏切るってどんだけーって思うぞ」
せっかくのイケメンが台無しになるような、苦虫を噛み潰した顔をし、落としたビニール袋を拾い上げ、さっさと家の中に入っていく。
俺らの話にはそんな甘い展開よりも、面白いことの方が多いんだから、そこんとこ諦めて読んでくれてるよ。
ぶーたれながらそんなことを考え、いそいそ靴を脱いで、家の中に入る。
「ねぇ俺とお昼、どっちを先に食べるの?」
「やっぱお前ってバカ、聞くだけヤボだろ」
舌打ちして乱暴に俺の腕を掴み、ベッドに放り出した。
「……んっ、っ……」
一瞬だけ間をおいたキスに、どんどん息が乱れてくる。
思い出すなぁ――翼がまだ高校生の時に、心に響く言葉を言ってくれた後に、今みたく貪るようなキスをしてくれたこと。ふかぁく舌を絡ませてから、上顎をゆっくりと撫でられ、さんざん俺を感じさせて、翻弄してくれたんだよな。
そんな最高のキスをされて翼の告白を聞き、隙をうかがっていた俺のミッションが成功したんだ。
「何を考えてるんだ?」
服を脱がす手を止め、不思議そうな顔をして、俺を見つめる翼。
「大きな仕事を終えたせいかな、昔のことをぼんやりと思い出しちゃった。翼との微妙な距離感を何とかしたくて、奔走してたあの頃のこと」
「ああ……枯れ草まみれの頭で、俺に告ったもんな」
「ちょっ、どうしてその部分? ふたりにとって、もっと大事な場面があったでしょ!」
思わずプンスカ怒って、起き上がってしまった。
「俺が翼にどんだけ恋焦がれ、君に逢いたい気持ちに囚われていたか、全然分かってなかったんだね」
「そんなことを言ってもな、あの頃の俺はノーマルだったんだから、迫られても困ったんだって。しかもお前ときたら、スリッパで何もないところで何度もこけたり、嫌っているのが分かってるのに、頬にキスしたり……どっからどう見ても、アブナイ刑事にしか見えなかったぞ」
雄弁に語る翼に、二の句が告げられない。
「ま、そんなアブナさと危うさを兼ね備えていたからこそ、放っておけなかったワケだけど」
その言葉に、怒りがすっとなくなる。ホント手懐けられてる感、満載だよ。
お手上げだというしるしに、ワイシャツをさっと脱いで、翼に投げつけてやった。
「マサの想いに侵食されて、俺の運命が狂った分だけ、しっかりと責任取れよな」
「どうやって?」
「その格好でソレを言うのか。いつまでたっても困ったヤツ――」
困ったヤツと言いながらも、なぜか翼は嬉しそうな顔をし、俺を押し倒して唇を重ねた。
俺たちの夢のあとさき――どんな悲しみが襲ってきても、君となら半分になるって思える。喜びなら2倍になるのかな。そんな希望を願っているんだけど、翼はどう思うだろうか?
この甘い展開が終わったら、きちんと膝を付き合わせて語り合わないと。ふたりの未来のために――
おしまい
このあと、番外編とあとがきがあります☆
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