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#1 アルファ:赤羽那緒

全ての人間には等しく人権があり、愛し愛される可能性があり、未来がある。 安井(やすい)理緒(りお)はそんな綺麗事を心の底から信じている。 古来性は女、バース性はベータ。 二十二歳で赤羽(あかばね)純也(じゅんや)と結婚し、二十四歳で一人息子を出産。 誰からも祝福された結婚と出産だった。そうして築かれた新しい家族もまた、慈しみに溢れ、絵に描いたような幸福な家庭の様相を呈していた。 生まれた息子、那緒(なお)のバース性はアルファだった。 全ての子供は就学時健診でバース性の診断を受ける。 その時点でバース性の発現が認められなければ、数年後に改めて受診する必要があるが、那緒は初回でアルファと診断された。 純也と理緒は平等主義者ではあるが、漠然とアルファ性への一種の憧憬を抱いていた。 ベータよりも数が少なく、優秀な人間が生まれる比率が統計上、高い。 息子がアルファとして何かしらの才能ある人材に育ち、誇り高い人生を歩んでくれることを願いはしたが、真っ直ぐ育ち、幸せになってくれればそれだけで良い。そうも思っていた。 やや鈍臭いところのある息子が、まさかアルファだなんて。 意外だったね、結果を聞いたときは嘘だと思ったよね、と、夫妻はよく笑いのネタにした。 赤羽(あかばね)那緒(なお)、十七歳。 バース性検査の結果、やっぱり嘘だったんじゃない? 自らそう疑いたくなるほどの、世間一般に言う、ポンコツである。

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