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#2-2

錆びた引き戸に手をかける。指が震えて、力も上手く入らない。 建付の悪い引き戸はうるさい音と共にどうにか開いてくれた。身体を滑り込ませ、すぐに内鍵を掛ける。 薄暗がりの中を、宗介は霞む視界によろめきながら進んだ。 饐えた臭いと、肌を刺す空気の冷たさ。辛うじて天井と壁があるだけの、何せ、ほぼ屋外だ。しかし焼けるような熱さが引くことはない。 折れたバットやら破れたネットやらが散乱する中を、土足のまま構わず奥へ。 一番隅に分厚いマットが敷かれている。 恐らく誰かがそういう目的で置いたんだろうと宗介は思っていた。あまりにも御誂え向きだ。 体育で使われていたであろうそれは、一ヶ所が大きく裂け、綿とスプリングがはみ出している。 宗介はその上に膝をつき、震える身体を横たえた。黴臭さにも構っていられない。 熱く濡れた吐息がひっきりなしに唇から溢れた。 スラックスのポケットに突っ込んできた錠剤をどうにか取り出し、シートから三錠出して飲み下ろす。 唾液が次から次へと湧いて止まらないのに、喉はカラカラに渇いている。 「……ふ、……ッ」 熱くて仕方ない。 身体の内側で燃えて燻る、どうしようもない欲だ。 首筋を汗が一滴伝い落ちた。 真冬の外気に一瞬で冷やされた汗の感触に息を飲む。誰かの指先が滑ったかのようだった。愛撫されたかのようだった。 宗介はがくがく震えっぱなしの我が身を抱き締めた。胎児のように身体を丸め、震えと衝動を抑え込もうとする。 これまで一度として欲に逆らえたことはなかった。わかっているのに、抗おうとしてしまう。そうして余計に屈辱を味わう、また負けた、と。 「う、……んん……」 言うことをきかない手で、どうにかベルトのバックルを外す。 スラックスの前を寛げると、籠った熱がぶわりと霧散するように感じた。 下着の中で芯をもち、濡れそぼっている中心。差し入れた指が先端を掠めただけで、目の前に白い光が飛ぶほどの快感が走った。 「っぁ……、う……んっ」 スラックスを脱ぐ余裕すらなく、雑に手を突っ込むと、握った屹立を夢中で擦り上げる。とめどなく溢れる先走りが、ぐちゅぐちゅと濡れた音を響かせた。 最初の絶頂がすぐに訪れる。脱げかけた靴の中で爪先が痙攣する。 身体を丸めたまま、宗介はその切れ長の目をきつく閉じて、自身の手のひらに精を吐き出した。 殴り合いの喧嘩の後のような、荒い呼吸を暫し繰り返す。身体中の血がどくどく脈打っているのがわかる。 解放されたのはほんの僅かな間だけだった。冷えた空気をいくら吸い込んでも、頭がくらくら煮えているのが治まらない。 搔き消すことのできない欲の炎は、やがて甘い疼きとなって再び宗介を襲った。 「……ん、っ……」 前も足りない。たった一度出しただけだ。 しかし、今度はそれよりも、奥。 宗介の痩せた身体の、深いところ。 ――抑制剤が効いてくるまでだ。 白くちらつく思考の端で、宗介は必死に自分へ言い聞かせた。 これくらい、何でもない。すぐ終わる。すぐに効いてくる。それまで一人で耐えていれば、それで済む。 「はぁ、あ、……クソが……っ」 すでに汚れた下着に、自身の白濁に塗れた手をなすりつける。そのままスラックスと一緒に腿までずり下ろすと、恐る恐る指を泥濘んだ奥へと滑らせた。 孔の淵は触れるのを躊躇するほど熱く感じて、それでも湧き上がる欲求に、身体も思考も支配されたまま。 埋めるものを欲しがって淫らに潤んでいるそこは、押し込まれた指先を悦んで受け入れた。 ぐじゅ、と酷い音。 背中をぞわぞわと悪寒が駆け上がる。 慣れない快感のためなのか、それとも浅ましい本能への嫌悪か、宗介にはもうわからなかった。 「ッう……ぁ、……」 誰にも触れさせたことのないそこが、自身の指を根元まであっさり咥え込む。 衝動のままに抜いてはまたじわじわ突き入れて、拙い自慰の快楽に蕩けていく瞳。 そこに普段の凶暴な宗介の姿は影もなかった。 「ぅん、ッ、……っ……!」 誰も聞いてはいないのに、最後のプライドで喘ぎだけは噛み殺す。代わりに涙がぼろぼろ零れて、埃っぽいマットを濡らした。

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