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#6-2
入学式の閉式後、いくつかの雑用をこなしようやく解放された那緒と友春は、各々の新しい教室へと戻った。
友春の予想通り、面倒なホームルームの類はほとんど終わっていて、あと三十分もすれば下校できるはずだ。ダルい仕事だったが採算は取れた、と友春は自分を納得させた。
残りの時間は席について適当にやり過ごす。
机の下でスマートフォンを起動すると、アイコンのひとつに新着通知を見つけ、アプリを開いた。友人や家族と使っているものとは別のメッセージアプリだった。
見知らぬ名前のアカウントからメッセージが一件。ほんの数分前だ。
雑に目を通し、削除、ついでにアカウントをブロック。友春がこのアプリを利用している目的には到底そぐわない内容だった。
小さく息を吐く。今日は何かと溜め息ばかりだ。
待ち侘びたチャイムが鳴るのとほぼ同時に、起立の号令がかかる。新しい教科書類はまるごとロッカーに突っ込んで、友春はさっさと教室を出た。
時刻はまだ三時過ぎ。一旦帰ってからレコード屋にでも行くか、と考えながら一人、昇降口へ向かう。
「あ」
「……おう」
靴を履き替えているところに、同じくさっさと一人で教室を出てきたらしい宗介が現れた。
特に言葉を交わさずとも、何となく一緒に歩く流れになる。どうせ帰る方向は同じだ。
それにちょうど宗介に言いたいこともある。
友春のごつくて重いスニーカーに続いて、宗介のローファーがアスファルトを踏んだ。
「お前さあ」
足取りが横に並んだところで友春が口を開く。校門の前の桜並木が満開で、今の気分には相応しくない、晴れ晴れとした光景だった。
「弟が同じ高校来るの、先に教えとけよ」
ステージ脇から盗み見た、澄ました横顔を思い出すと、また苛立ちが湧き上がる。本来なら話題にするのも嫌だったが、それでも文句を言わずにはいられなかった。
当の宗介は「あー」といかにも関心なさげな声を漏らす。
「あいつ受かったんだったか」
「そりゃ受かるだろ。成績と外面だけが取り柄じゃん」
頭は良いが素行に問題のありすぎる宗介と違い、光希は昔から優等生だった。
そのいかにも「良い子」然とした振る舞いは、友春の知る限り小学校低学年の頃から変わっていない。
「ていうか何でウチなんだよ。もっと上のとこ行けただろ」
「知らねえよ。つーか何で俺がお前にあいつの進路教えなきゃなんねーんだ」
「うわ。お前ってほんとそういうとこ、友達甲斐ないよね」
じろりと横目で宗介を睨む。
「俺があいつ嫌いなの知ってんじゃん」
「俺だって嫌いだわ」
「お前んとこの兄弟仲は今どうでもいいんだよ」
宗介と光希は幼い頃から仲が悪かったが、昔は年齢の近い兄弟らしく、喧嘩しながらも一緒に遊んでいることもあった。
その頃は友春や那緒も、友人の弟である光希を時折構っていたものだ。
しかしある時期から、彼ら兄弟の関係は目に見えて険悪になったように友春は思う。
宗介がオメガだとわかり、荒れに荒れた頃だ。
光希がアルファだということは、その二年前にはすでにわかっていた。
「マジさあ、何でわざわざ同じ高校なわけ? お兄ちゃん大好きかよ……」
「やめろ気色悪ぃ」
宗介は吐き捨てるが、弟が自分と同じ高校を選んだ理由はわかっていた。
それはほとんど確信に近い憶測だった。
優等生で何でもできて、何をしても大人に褒められる。
そのくせ光希は、昔から兄である宗介の真似ばかりしたがる。
同じことをしても、自分の方がうまくできる、優れている。
それをいちいちひけらかしたいだけのように見えて、宗介はそんな弟がうざったくて仕方ない。
「あいつの腐った頭ン中なんざ理解できるかよ」
低く落ちた宗介の言葉に、友春も本日何度目か数えきれないほどの溜め息を零した。
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