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#6-3
鞄のポケットを漁り、自宅の鍵を探す。
決まった場所に入れずいつも適当に放り込むので、無駄な時間を食ってしまう。わかっていても友春は癖を改められない。
共働きの両親の元で育った友春は、所謂鍵っ子だった。
兄が一人いるが、すでに自立し家を出ている。
平日は大抵、自分が一番早く帰宅して鍵を開けることになる。
洗面所で手を洗い、その足で二階へ上がる。
サンルームに干してある洗濯物を下ろし、両親の分はそれぞれのクローゼットへ。アイロンをかけるもの以外は、下着類も全てハンガーのまま突っ込んでしまう。合理主義の両親らしい習慣だった。
自分のものは自室まで抱えていき、同じくクローゼットのバーにまとめてかける。
ここまでが友春の仕事だ。
制服を着替える前にスマートフォンを開くと、アプリにまた新着メッセージが届いているのに気づいた。
今度の送り主は見覚えのあるアカウント名だ。数ヶ月前から時々やりとりをしている。
文面に目を通し、壁の時計を暫し見つめた後で、短く返事を打ち込んだ。
『七時までなら』
先程閉めたばかりのクローゼットをもう一度開け、適当に着替えを見繕う。
白のカットソーにダークグレーのカーディガン、濃い色のデニム。極めてシンプルな出で立ちとなった。衣類に限らず友春のあらゆる持ち物は「凡庸で、目立たず、大衆的であること」を基準に選ばれている。
通学鞄から財布だけ抜き、ボディバッグに入れ替えると、友春はそれだけ携えて再び家を出た。
ポケットのスマートフォンから伸びるイヤホンを耳に差し込む。それだけで外の音は聞こえなくなるのだから便利だと思う。
友春は今から繁華街に向かう。
レコード店とレンタルショップと本屋を覗いてから、カフェで人を待つ。
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