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#8-2

「ぁ、な、ってめ……なに、……ッ!?」 ぎょっと顔色を変えながらも腰を大きくびくつかせる宗介に、わざと軽薄に笑いかける。 「重く考えるなよ。怪我に絆創膏貼ってもらうようなもんだと思ってさ」 「おっ、思えるか!」 「大丈夫だからじっとしてろって。他意はないから」 友春の手に自分のそれを重ねて引き剥がそうとする姿は必死だが、哀れながら叶うだけの力は入っていなかった。 容易にウエストゴムを割って、友春は宗介のジャージの下に手を潜り込ませると、本人の意思に反して昂ったものを握り込む。熱の塊のようなそこは悦んで打ち震え、さらに硬度を増す。 逃げる身体を無理矢理に押さえつけることはせず、もう片方の手は汗ばんだ脇腹のあたりにそっと沿わせると、震えながら腕に爪を立ててきた。 「っう、あ……!」 握ったものを擦りあげると、忙しない呼吸の合間に、意味を成さない声が混ざり始める。先端はすぐに雫を溢れさせて、熱く張りつめた。くちゅ、と小さく水音をたてながら、指の腹を鈴口に滑らせる。 「ん、あっ、や……やめ、ッ離、せ……」 抵抗を続ける口とは裏腹に、宗介の腰は友春の手に押しつけるように揺れている。揶揄ってやりたいような気もしたが、友春は黙って根元から扱く単調な刺激を繰り返した。 回路の狂ったそこは呆気なく限界を迎え、先端を包み込んだ手のひらの中に吐精した。 宗介の全身が一気に弛緩し、友春の腕にいつの間にか縋りついていた指先がずるりと床に落ちる。 上がった息、虚ろに潤んだ瞳。宗介の表情は、いかにも情事の余韻の真っ直中というそれだった。 あの宗介がろくな抵抗もできずに快楽に屈している。これがヒートか、凄いな、と友春は能面のような無表情を張りつけたまま思う。 涙目で睨んでくるから、真っ直ぐ見つめ返してやったら、逆に顔を背けられた。 いつものガラの悪い宗介なら絶対にしない仕草だ。ちょっと可愛い、と思いながら、友春は宗介のジャージのボトムに手をかける。 容赦なく下着ごと膝まで下ろすと、ひゅっと息を飲む音がした。 「う、嘘だろ、おい、……友春っ」 「別に突っ込もうとか思ってないから。触るだけ」 「そういう問題じゃね……ッ……!」 今しがたまで握っていた性器は、萎えずに芯をもったままだ。その奥へと指を這わせると、途端に宗介は唇を噛んで大人しくなった。 「い、やだ……、触んな、っあ、っ……」 「指くらい自分で入れたことあるだろ? ビビんなって」 あっさり到達した後孔は、内側から滲む体液で濡れそぼっていた。狭そうなふちをぐるりとなぞると、上擦った声が宗介の唇から零れる。 本当に濡れるのか、便利だな、というのが友春の素直な感想だった。見た目に差異はないのに、ベータである自分の身体とは明らかに違っている。 泉のようになったそこにゆっくり中指を挿し入れると、中の熱さに驚いた。指先が溶かされそうだ。 「ぁ……、あっ……」 宗介はぎゅっときつく目を瞑り、白い喉を曝け出して堪えきれない声を漏らす。その声が甘さを帯び始めるのが、友春をやけに安堵させた。 ひくつく襞を割り開いて深くまで侵入し、腹側の壁を抉りながら入り口まで退いていく。何度か繰り返すうちに、ごく小さな引っかかりを見つけた。ぬるつくそれを押し潰すように撫でた瞬間、宗介の身体が大きく跳ねる。 「ぅあ、っ! ……ッな、んだそれ、嫌だ、やめろ!」 「……え、前立腺触ったことないの?」 その反応には友春の方が目を瞠った。 指を入れたことはあるのに、ここに性感帯があるとは知らないらしい。意外だったが宗介らしいような気もした。 ヒートに浮かされてやむなくしていただけで、ここでの自慰のやり方を調べたり研究したりは一切したことがないに違いない。 「抜き差しするより、こうやってここ触った方が、楽に気持ちよくなれるよ。ヒートのときって、いっぱい出した方が早く治まるって聞くし。ここは、ほら、前に直結してるからさ。手っ取り早くイける」 敢えてぺらぺら喋りながら、かなりの力加減をしてそこを弄ってやる。宗介は涙目で面白いようにびくびく身体を震わせ、いつの間にか腹につくほど屹立した中心から、透明な蜜をひっきりなしに滴らせていた。 「あっ、あ、……ッう、ん……っ」 切なげな喘ぎを漏らしながらも、時折はっとしたようにきつく唇を噛みしめる宗介の口元に、友春は指を這わせる。 「噛むなって。血ィ出るよ」 純粋に宗介の身を慮ってのことだったが、反射的にか口を開け、尖った歯を立ててきた宗介の行動は、友春には避けようもなかった。 「い……って! お前なあっ」 本当に獣のようだ。慌てて手を引き、反撃とばかりに前立腺を強めに抉ってやる。 「ひ、ァ! ……ぁ……ッ」 半ば悲鳴じみた、声にならない声をあげて、宗介は二度目の射精に至った。勢いのない白濁がどろ、と腹を汚す。

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