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#11-2

大きく膨らんだ母の腹に触ったり、耳を押しつけて胎動を聞くのが、宗介は好きだった。 光希が生まれたときの記憶はさすがにないが、それから年子の妹二人と弟一人が生まれるまでは、それをして過ごすことで、新しいきょうだいが生まれるのを実感していた。 そこに宿った生命が、自分にとって慈しみ守るべき存在であることに、何の疑問も抱かなかった。 上から数えて七番目のきょうだいを母が身籠った頃、宗介は八才だった。ちょうど光希のバース性がわかったばかりで、また小学校の授業でもバース性のことを教え始める頃だった。 アルファとオメガ、もしくはベータ同士の男女であれば子供をつくることが可能だということ。 オメガはかつて社会的に弱い立場であったが、今ではオメガをサポートする仕組みが整えられつつあること。 結婚に際する性の縛りもなくなったが、繁殖のできない者同士が伴侶となることに偏見を持つ人々もまだまだ多い。 生まれ持った性別や恋愛的な指向による差別はやめて、お互いを尊重しあいましょう。 そんなようなことを散々教わった。道徳でも家庭科でも保健体育でも、切り口は違えど辿り着く結論はいつも同じだった。 両親がアルファとオメガであることは、教わらなくともいつの間にか知っていたように思う。しかしその知識はまだ子供のものだった。赤ん坊はコウノトリが運んでくる、もしくはキャベツ畑に生る、そういう類の話に近いぼんやりとした認識だった。 「あたしと、宗介と、光希。本当のきょうだいは、あたしたち三人だけなんだって」 二つ年上の姉の藍良(あいら)が、洞窟のようになった公園の遊具の中でそう教えた。膝を突き合わせた宗介と光希の、首を捻る仕草がシンクロする。 「本当のきょうだいって」 「どういうこと?」 「玲美(れみ)詩織(しおり)瑛太(えいた)は」 「きょうだいじゃないの?」 宗介は確かに、母の腹の中に彼らがいたのを知っている。あたたかいそこに耳を当てて聞いたのだ。今だって新しい弟か妹が、日に日に成長しているはずだ。 藍良は首を横に振る。 「みんなお母さんから生まれたから、半分はきょうだい。でも、お父さんが違うんだって。玲美も詩織も瑛太も、みんな、違う人とお母さんとの子供なんだって」 幼い光希がきょとんとして尋ねた。 「どういうこと? だってお父さんはお父さんでしょ?」 「ケッコンするだけじゃ子供はできないの。ほかのことが必要なのよ」 「ほかのことってなに?」 「そのうち学校で習うよ」 「今おなかにいる子は? お父さんの子供じゃないの?」 「違うみたい。お父さんとお母さんの子供は、あたしたちだけ」 光希のストレートな言葉に、藍良は淀みなく答えていった。それを聞きながら宗介は、次第にむかむかと落ち着かない心地になっていくのを感じる。 「……なんだよそれ。ほんとかよ。藍良、誰から聞いたんだよ」 疑わしい目を向けるが、姉は大きな瞳にしっかりと宗介を捉え、答えた。 「葉山(はやま)さん」

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