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#12-2

告白紛いの言葉を、友春は綺麗に右から左へ聞き流した。「あっそう」とだけ返して足を早めると、光希はなぜか楽しげに「うん、そう」と言いながらぴったり横をついてきた。 「そっかあ。ベータってことは、友春くんを好きになったら、俺もアンコンってことになるのかあ」 しれっと距離を詰めた光希が、スラックスのポケットに手を突っ込んだ友春の腕に、自分のそれを絡ませてくる。 振り払っても擦り寄ってくる光希の肩を、友春は空いているほうの手で強めに押し戻した。 「おい、くっつくな。誰かに見られたらめんどいんだよ」 「なんで? いいじゃん別に」 よくない。ここは外で、住宅街の真ん中だ。人目もあるし、そろそろ自宅も近い。男同士で密着しているのを知り合いに見られては困る。 その真意を知ってか知らずか、光希が軽く笑う。 「俺たちがくっついてても、アンコンかどうかなんて、見た目じゃわかんないよ」 アンコン――日本語を当てるならば、繁殖不可性愛。ただし蔑視的なニュアンスが感じられるため、この表現は避けられる傾向にある。 繁殖に結びつかない性愛、を指す用語だ。当初は俗語扱いだったが一般化されつつある。 子供をつくることができない性の組み合わせで番うこと。 語源は英語でアンコンディショナルラブ、無条件の愛といったところか。ずいぶん感傷的なフレーズを当てたものだ、と友春は少し冷ややかに思っている。 光希の言う通りだろう。バース性は見た目ではわからない。友春と光希が腕を組んで歩いていたところで、アンコンなのか否かの判断はできない。 そもそも友人同士のじゃれ合いにしか見えない可能性もある。 そんなことは友春もわかっている。 それでも、だ。 友春にはアンコンだと疑われたくない理由があった。 身を引く気配のない光希に、友春は殊更冷たい視線を向ける。 「お前さ。俺に絡んできたのって、俺が宗介を好きだと思ってたからだろ」 中学は父親の言いなりで私立へ行ったくせに、わざわざ兄と同じ公立高校を選んで進学してくるほどの歪みっぷりだ。自分に寄りつき始めたのも、その勘違いあってのことだと考えれば頷ける。 友春は淡々と続けた。 「ブラコン拗らせすぎ。マジ傍迷惑。俺とお前がどうにかなったところで、宗介は何とも思わないよ。……ま、それ以前に、お前とどうにかなることなんてないけど」 冷めきった言葉。じっと聞いている光希の瞳が揺れた。付き纏われるのもいい加減うんざりだ。友春は嫌味っぽく目元だけで笑う。 「誤解も解けたことだしさあ、もう俺に関わってくんの」 やめて。そう言い切る前に、口元を覆われて言葉が途切れる。 キスをされた。マスク越しに。不織布が唇にぺたりと貼り付く感覚。 押し当てられたぬるい熱がなんとなく伝わる程度で、光希自身の感触はない。見開いた目に光希の瞳が映る。 はっと我に返って飛び退いた友春を、光希は思い切り臍を曲げたような顔で上目遣いに見つめていた。 「……ッ、てめ、ふざけんなっ」 「ふざけてんのは友春くんでしょ? 宗介の話ばっかしてさ、やっぱ好きなんじゃないの? ムカつく」 「お前が最初に始めたんだろ」 薄い唇を尖らせた光希を睨みつつ、周囲を確認する。人影はない。誰かに見られてはいないだろうか。 マスク越しで意味はないとわかっていても、つい手の甲で口元を拭ってしまう。 「外でこういうことすんな」 「外じゃなければいい?」 「うるさい。次やったら本気で殺す」 地を這うような声に光希が肩を竦めた。ひとつ舌打ちをくれてから、友春はいよいよ足早に歩き始める。 できれば置き去りにしたかった憎たらしい相手は、こたえた様子もなく引き続き、半歩後ろのあたりをちょこちょことついてきた。 「友春くんとエロいことしたい」 「十年早えんだよクソガキ」 「ふたつしか違わないじゃん」 「うるさい」

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